Sons Of The Dragon


一日、家いるつもりだったが、あまりに天気が良かったのと渋谷駅に行く用事ができてしまった事から外出する事にした。ダークグリーンのニットを今日も着ることにして、このニットはガサッと頭からかぶって着て、それを姿見で見てみるとき、これは丈も長めでゆったりとしたシルエットのすごくぶっきらぼうなシンプルなデザインで着やすいし好きなのだが、これを着ると上半身がストンと何もない感じになって、なんとなく殺風景というかちょっと何かアクセント的なワンポイントがあってもいいかと前から思っていて、アメ横かどこかで木製か金属製の安いネックレスとかそういうのでも買ってみようかな、ちょっと大ぶりなトライバルなバカみたいな感じだとどうだろうか、でも自分はアクセサリ系とかは今まで付けたことがなく全然わからないな、とか思っていたら、妻がこういうの持ってるけどこれなんかどうだろうと言って自分の所蔵品からわりと普通な慎ましい感じの木のヤツを2点ほど出してくれたので付けて見たらなかなかイメージ通りな感じで、ああなるほどまあ悪くないかもと思ったので、それをつけて出かけた。


そういえば今年は、夏から秋口にかけてはひたすらボウリングシャツを買ったもので、ヴィンテージものからよくわからないものまで夏の一時期だけで10着くらいは買ってるかもしれない。開襟でかっちりとしたオールドテイストな独特なあの形に魅了されたところもあるが、ワッペンとかバックプリントへの前から自分の中に潜伏していた嗜好を今年は全開にしてしまったというのもあって、でもあまりにもあからさまにド派手にそれ系の格好も嫌なので、控えめにしかし必ずその要素で、という按配で夏をすごした。自分にとって半袖のワークシャツへの思いとか、今まであまり自分の中になかった要素が結構いっぱい出てきたという意味で印象的な今年の自分だった。その流れで今日のアクセサリとか。あとはさすがに刺繍とかそっち系にはたぶん行かないとは思うが、駅とかその辺を歩いていて見かける若い子たちの格好を見ていると、ほとんど装飾とかロゴとか何かの意味合いなり記号なりを直接ぶら下げて引き摺りながら歩いているかのような過剰極まりないその様子に思わず呆れると同時に、まあでも気持ちはわかるなあとも思うところもなくはない。


まあそれとは関係ないけど先日刺繍というか龍の紋様が入ったホワイトヴァイナルのSons Of The Dragonのレコードを発見したので買った。というか買って家で聴いてはじめて、ああこれってこれだったのかと気付いた。一年前にさんざん探していて、結局あきらめてMP3とかで買った音源だったけど、1000円以下で売ってたので買う。まあ買えて良かった。たぶん一年前に買えてたらあまりにも嬉しくてもう生活が一部揺らいでしまったことだろうけど、すでにすっかり忘れてた。でも、今回何枚か買ったレコードの中では飛び抜けて素晴らしく他の何よりも群を抜いて圧倒的だったのはJeff MillsのThe Divine EPであった。これにはやられた。比較を絶して感動的。これをなぜ今ま聴いてなかったのかと自分を責めたくなった。


今日は昼から出かけて、千代田線で表参道、半蔵門線で渋谷まで。渋谷駅で用事を済ませた後、京急大森海岸駅まで移動した。京急は各駅停車ののんびりした電車で、窓が異様に大きかった。向かいの座席で東北地方の訛りの声のおじさんが女性に坂本龍馬はおそらく即死だったろうけど中岡慎太郎はその後も二日くらいは生きてたらしいけど、刀であれだけやられてもそれだけ生きていられるものかねえなどと話していて、大森海岸駅から歩いてしながわ水族館に行った。先日妻が「イカの泳いでいるところをみたい」と言うので「それはイカを見たいということか食べたいということか」と確認したところ「食べたいというよりは見たい。泳ぐところを見たいということは」というので、じゃあ水族館だということになった。あまりに天気が良かったのと渋谷駅に行く用事ができてしまった事に上乗せする形で、だから今日は出かけたということ。


今日の水族館で見た中では、なんといっても圧倒的で、他の何よりも群を抜いて素晴らしかったのはマイワシだった。円筒形の水槽の中をひたすらぐるぐると回遊しており、泳ぎながらその口を大きくあけて海水を口内に導きいれ、おそらく海水中の細かい微生物や何かを摂取しているのだと思うが、そのマイワシのときおり口を大きく開けながら泳ぎ続ける様子にひたすら魅了され、じっと見つめ続けるより他なかった。とにかくマイワシの身体は、銀色に光り輝いていた。その輝きは、まさに驚くべきものである。まるで金属である。見たことはないがおそらくアメリカの古い爆撃機B29も、きっとあれほど銀色に怪しく光り輝いているに違いない。そしてあの口腔部位の形状と質感の面白さ。口を開けると言っても、たとえば鯉の真ん丸い口がぽっかりと空いているような話とは訳が違うのだ。何かもっと恐ろしく複雑で精巧な仕掛けで出来たものが、ときおり思い切り開くのだ。口腔部位全体がこころもち前に張り出すかのようなのだ。金属的でそして精巧な仕掛けの機械が、水流をしっかりと受け止める。下顎と上顎の中間の部分はほとんど半透明な透けた材質の細かいジョイント部品で連結されており、まるで精密機械の稼動をまのあたりにするかのような面白さなのだ。「マイワシがすごいねえ、そういえば魚屋で売ってるイワシは、これほど素晴らしい感じはしないけど、口元とかはたしかにこういう感じではあるねえ、それに魚屋の死んだイワシだと、もっと青々としていて、青魚という感じがするけど、今こいつらを見てると、全然青くないねえ、銀色の身体にところどころさし色のようにして黄色が入っている感じだねえ」などと言いながらいつまでも見ていた。


しながわ水族館にはイカは一匹もいなかったので残念だった。その後御徒町に行って久しぶりに吉仙に行った。師走の上野・御徒町はいつもの師走のように活気があり、店も混んでいた。