「火夫」


カフカ短編集の「火夫」…この話をカフカはどうやって書き始めたのだろうか?その場その場の思いつきで書かれているような感じもする。会話が面白くて、場の空気の変わり方や登場人物の心のありようの変わり方が面白くて、要するにそれは作者の頭の中で本当に起こっていることだからそれがあれだけ生々しくも滑稽な、異様なリアルさをたたえているのだろうけど、でもだったらその話は、作者の頭の中で起こったのがそのまま順々に書き付けられていったのだろうか。おそらくはそうなのだろう。その可能性が高いのだろう。しかし冒頭で、主人公のカールは女中に誘惑されたことがきっかけでアメリカ行きの船に乗っていることが簡潔に触れられていて、これが後で伏線みたいになっているのは、これはどうしてなのか。この冒頭が妙なエピソードなのに、それ以降物語の前半はそんな事まったく無関係に進んでいって、あの件はいったい…とかすかに思いながらも、あまりの展開にあっけに取られながら読み進むのだが、後半に至ってその事が回帰してくるのだ。しかしそれって、別に後半がああじゃなくても全然良かったのじゃないか、という気もしなくもない。前半の火夫とのやり取りと、船長たちとのやり取りのものすごい面白さだけで全然別の方向へ展開しても一向に構わない感じなのだ。これは「そうなったから良い」とか「そうなったかたつまらなくなった」とか、そういう類の問題ではない。「そうなるかもしれないし、そうじゃないかもしれない」という中で、たまたまそうなったということなのだと思う。…しかし、再び書くが、冒頭で、主人公のカールは女中に誘惑されたことがきっかけでアメリカ行きの船に乗っていることが簡潔に触れられているのは、やはりとても不思議だ。この冒頭だけを後から付け加えた?でもそんな事が可能なのだろうか?そういう事は、なんとなく不可能なんではないかという気もする。いや、できるのかもしれない。とりあえず今のところ僕の推理では、冒頭の女中とのエピソードは後半があの展開に向かうことがほぼ確定した時点で加えられたのではないかと思っている。というか、もし僕がカフカならそういう書き方をしそうな気がする。まあ、そんなのどうでもいいことですけど。


※更新して一分も経たないうちに追記。そうだ、別に冒頭のエピソード内容なんかどうでもいいのだ。関係ないじゃん。後半のあの展開と冒頭のエピソードは、別に紐で結ばれてるわけじゃないのだ。うっかりしてた。どうでもいいのだ。やっぱり全部思いつきで書かれてるのかも(笑)。。ひどいな。すごい。