Amazon Primeロマン・ポランスキー「チャイナ・タウン」(1974年)を観る。フィルム・ノワールという言葉にふさわしく、ちりばめられたエピソードがきれいに連動していき、考え抜かれた緻密な設計図構築の技を見るかのようだ。その緊張感と仄めかされてしだいに内実のあらわれる「謎」の扱い方が素晴らしい。しかもそれは、ほろ苦い結末のうちに煙のように辺りへ溶けていって、幾多の事件と同じく主人公や各登場人物らの時間のなかに、いくつもの過去の一つとして解消されていくのだろう。

  • 他人の名刺を使って立ち入り禁止区域へ飄々と入っていく手口。
  • 様々な場所に見かける、ちりばめられた謎のようなカジキマグロのマーク
  • 冒頭に聞かれた、池の掃除人の独り言(口癖)に、後ほど「もう一言」が加わって、何かと何かがつながり、答えが浮かび上がってくること。
  • 自宅の池に沈んでいる何かの物体(一度拾おうとして果たせず、ずいぶん後になってようやく拾う、この「忘れた頃」なタイミングの絶妙さ)。
  • 謎の死。事故なのか、殺されたのか、悲しんでいるのは誰なのか、偽物は誰なのか、ウソをついてるのは誰なのか、それぞれ、誰が何の事情をかかえて、何を守りたいと思っているのか。
  • 拾い物の持ち主をあっさり切り替えて、さらに真相へ近づける。
  • 相手の車のテールランプを割って「片目」にしてからの、自動車による夜の追跡。
  • 冒頭少し出てくるバート・ヤングが、後半の予期せぬタイミングで再登場の驚き。
  • 主人公のジャック・ニコルソンは元警官、今は探偵事務所の探偵。かつてのチャイナ・タウンの(決して楽しいものではない)記憶の再来。
  • 二人のチンピラにリンチされ、二度目は駆け付けた自動車で脱出。後ろから銃撃されるも退避に成功。
  • ジョン・ヒューストンの笑顔と溌剌とした声の感じが余計にヤバい、あまりにも異常な事の顛末。
  • この映画は、車の後ろから銃撃されても弾は当たらない?いやラスト、刑事の銃撃からは逃げきれなかった。
  • 逃げ切ったかと思いきや、ゆっくりと停車する車、響き渡る悲鳴。

血塗られた運転席に横たわる凄惨な死体。美女の身体に風穴が空いて、この映画は終わる。本作のジョン・ヒューストンは存在感凄すぎて、「フェイブルマンズ」でジョン・フォードを演じたデビッド・リンチが霞んでしまう。まさに黒光りするかのような悪辣さ、これぞ極悪人の姿、真なる悪、本当の黒幕とは、これほどまでに人懐っこくて魅力的な雰囲気を醸し出す老人であることか…と。

フェイ・ダナウェイは当時何歳だったのか。尖った頬骨や顎の骨格が、どことなく往年の日本女優のようにも見える。