多摩川の朝


多摩川にかかる鉄橋を電車が渡る。車輪が橋桁を通過するときの轟音が床の下を通じて響き渡る。窓の外の鉄骨がものすごいスピードで、縦の線は目にも止まらぬ速さでぐんぐんと通り過ぎていき、横の線はなまめかしく色合いと質感を変えながらゆっくりとのたうつように、おおよその位置を変えないまま視界を横に区切っている。その向こうに広がる風景はだらしないほど横に広がってだだ流れしている多摩川の姿で、川面は細かな細波に震えており、ある一角だけが日光を鋭く反射させてこちらに強い光線を投げかけている。光は川面のほかにも、横の線の一部にも小さく伝播してその場でこちらへ向けて輝きを発し続けていて、電車の走行と同じスピードでさっきまらずっと同じ位置を保ったまま、眩く光り続けている。開いた本の両ページの白さが、それらすべてを含んだ朝の光の反射光を受けて、柔らかく自分の顔の真下あたりまで持ちあがってくる。質感をともなった、自ら発光するような白さとして、この光に包まれた空間の中で平然と自ら発育し始めた。思わず本を読むのをやめて、しばらくの間、本を見ていた。