早い時間に妻が眠ってしまった。リビングのエアコンの冷気は寝室へと流れている。隣合った部屋の明るさと暗さが、開いたドアの境目で混ざり合っている。しばらくしてから部屋の照明を消して、自分も寝室へ移動する。

男子百メートル予選と、準決勝と、決勝の時間ごとにアラームはセットされているらしい。真夜中にアラームが鳴ると、妻がいそいそと起き上がって、隣の部屋がふたたび明るくなって、妻はテレビの前に座る。テレビ中継の音声が寝室まで聴こえてくる。僕は眠りながらそれを聞く。一瞬覚醒して、また眠りに落ちる。

暗闇のなかのある一画だけがぽっと明るくて、そこでお祭りが開かれているのを、誰かが覗き込んでいる、そんな夢を見ていたような見ていなかったような気がする。