ギター


公園で、芝生の上に寝転んで過ごすなんて馬鹿じゃないだろうかと思っていた。


しかし、女と付き合うと、する事がなくなるから、公園に行くのだった。


やる事も無いし、金もないと、公園に行くしかない。


実家で、親がうるさくて気が塞がるのだそうだ。そう言ってた。


でも都内にも出たがらなかった。


たぶん半年くらい付き合ったはずだが、そのあいだ一度も都内にでてない。


すかいらーくが好きで、そこにずっといた。


結局ぜんぶ元に戻った。いや、元より無くしたのだった。


銀行に行って…


駅前で、パチンコ屋の二階の。


高田馬場から早稲田に行く途中の店でギターを買ったのはもう七年前だ。日本信販の月々の払い込み用紙が分厚い束になってるのをもらった。


月に一万いくらずつ十回払いで払わないといけないのだ。


でも、必要なものならしょうがない。


部屋を一週間も掃除しないと、何もかもが埃に包まれていく。本もレコードもギターもだ。


ギターは、やっと自分のしっくり来るギターを手に入れることができたので嬉しかった。車にたとえると、安くて下品な、行き当たりばったりで部品を追加した改造車みたいな、妙なギターだったが、これはこれで気に入った。


大体、いつもメンテナンスをしておくという習性がなかった。


機械やモノをいとおしく思う気持ちも、無いわけではなかったのだが、結局、一週間も掃除しない部屋では、気付くとすべてに、埃がつもっているのだ。いつもそのことを思い出した。製品カタログに載ってる光沢にあこがれる気持ちは最初からなかった。


だから買ったギターは部屋に置かれて一週間で、埃をかぶっていたのだ。しかし、埃をかぶっていながらも、そのギターには、常に電源が入っていたのである。


むしろ毎日弾いているのだ。埃まみれで、寒くて乾燥した部屋で、ざらざらとした床に座って、ティッシュで鼻をかみながら、ひたすらギターを弾く。ほかにする事も無いのだ。弾いてるというか、電源を入れて、弾いたり、弾かなかったりしている。ギターというのは、電源を入れてさえいれば、弾いても弾かなくても、音は出ているのである。弦の響きをアンプが増幅させて、うわーーんという残響が鳴り続けているのを、ずっと聴いているのだ。


友達の友達で、高校のとき同じ学年で西校舎のクラスにいたという、でもたぶん一度も会った事の無い、青山のマンションに家族で住んでいる誰か知らないよその人の家に友達と二人でギターを背負って行って、その人の部屋で、フェンダーのプレリヴァーブのアンプに持参したシールドを突っ込んで、勝手にパワーをオンにした。スピーカーは、錆びと埃にまみれたシールドを突っ込まれて、ものすごいノイズを出し始める。


ノイズばかりでかくて、ギターアンプというよりは大音量のトランシーバーみたいになる。「普段から掃除してないからこうなる…」友人が顔をしかめてつぶやく。弾き始めると、猛烈なノイズの奥から、旋律がかすかに聴こえてくる。全然インプットレベルが低い。シールドが腐ってるのかも。音をでかくしたくても、マスターボリュームをこれ以上あげるとすごいハウリングしてしまうのだ。これじゃあ演奏にならないじゃない。でも後でまあ、いいんじゃないと言って、そのあとお母さんのような人が部屋に来て、みんなで背中を丸めてケーキを食べて紅茶を飲んだ。


ギターには常に、電源を入れておくようにしていた。通電しているスピーカーのコーン紙の周りに、静電気で棒立ちになった埃の繊維が、まるでムーミンに出てくるニョロニョロみたいにびっしりと仁王立ちしていたのでライターを何度も着火させて一々すべて焼き殺した。その後で、タバコをすった。