こういうのを、ノイズ・サウンドと呼んでもいいんじゃないだろうか。音が、音を奏でている。音は、音を聴いていない。エレキ・ギター・サウンド。ギターは振動する。アンプが震えている。爪を立ててガラスを引っ掻く音。金属同士が擦れ合う音。顔をしかめたくなるような音。意図的ではない。不良の音。不具の音。でも不良少年の音ではない。甘えの対象を持たない不良、その先に期待を持たない悪意のような音。だから挑発的ですらなく、感情の上面を逆撫でして煽るような音とも違う。むしろ慎ましくて、大人しく、場をわきまえた態度に終始している。与えられた場所の枠内の真ん中の近くに、小さく余裕をもって座っている。お稽古した通りに、思っていたイメージをなぞるように始まる。それなのに何かが、始めからおかしい。その一粒一粒の内側から、得体の知れない、まったく違う成分が、外に向かって粉になって吹き零れてきて、全体が何か別の、からっと乾燥した寒い空に吹き晒さらしの、そこから薄いスクリーン一枚分ずれたもう一つの場の、身体をそちらに少しずらしただけで三半規管がおかしくなったみたいに水平感覚の合わないような、本来ありえない別の方角に間違って聴こえてきて、斜め後ろの見えにくい位置なのにたまたまガラス窓が斜めに何枚か重なっていたおかげで正面と側面が一緒に見えてしまっているみたいに、この今から五十年前に録音された18分間の音楽を再生している間は身動きがとてもし辛くなって、とても気に障る思いを耐えながら、眼の見ている位置を変えたりしながら演奏が終わるのをじっと待つ。