冷気


電車の中が寒い。寒さに包まれたようになってホームに立ち尽くしたまま身動きできない。なるべくじっとしているが、体中のそこかしこから熱が抜けて逃げていく。冷気の侵入を易々と許してしまっていてこのままではまずい。電車が早く来ないとやばい。電車が来た。電車に乗った。車内も意外と寒い。座ったらそれだけでまた大量に体内の熱が逃げた。もう余った熱はほとんどない。座って、そのままの姿勢で身動きもしない。早くドアが閉まらないと冷気がどんどん入ってくる。早く閉まれ。ドアが閉まった。電車が動き出した。そのとき、かなり強い風が、車両の前のほうから後ろにかけてひゅーっと吹き抜けた。その風をまともに受けた。一瞬だが、手持ちの熱を完全に失った。軽いパニックに陥る。しかしそれで動悸が早まり僅かながら熱量の回復が起こったようで、ぎりぎりのところでなんとか平静の状態を保つ。しかし状態変化が怖くて、目を瞑ることさえ躊躇してしまう。じっと人形のように動かず座っている。呼吸も危険で、できれば止めたいのだが、それはできないので十秒に一度くらいの頻度で控えめにする。気を確かにもって、決してあきらめないように自分を励ましながら頑張る。