冬の朝食


いつもより寒さが厳しくない朝だと思って、シャツの上にニットを着ずに普通にジャケットを羽織った。自分の顎の真下から、シャツの白さが溢れた。空は銀色の曇天。人々は相変わらずグレーの棒が川に浮かんで立つブイのようによろよろと進む。電車に乗り込んで黙りこくる。みんなが耳を澄ましている。電車の床を、茶色の毛のふさふさした得体の知れない小動物の親子が連なって走って逃げた。もし良かったら、寝る時間と起きる時間を変えてみようかしらと、ふと思った。ぼくはもともと、とくに平日だと朝食を食べなくて、昔から、朝は何も喉を通らなくて、コーヒーかお茶を飲むだけだ。でも、明日から無理してでも、何か食べようか。塩と胡椒の効いた半熟玉子とかベーコンの朝食。油とバターのぬるぬるとした指をパンで拭いて口に運ぶ。あるいは早めに出て何か食べたり寄り道して散歩したりしようか。妻が駅に向かって歩いてくるのを待ち伏せしてみようか。午前七時に、ちゃんとお店を予約して、夫婦で早朝からでかけて、お店で席に座って向かい合ってしっかりとした朝食をとるか。いや、そんな店はないか。