マクドナルド


まさに出来心というか、ついふらっと、というか、さっきまで、夢にも思わなかったはずの行動を、今している、という感じで、ふと気付けば、駅前のマクドナルドに入ってしまっていて、カウンターで声を掛けられて、咄嗟に、なんと答えれば良いかわからなくて、なすすべなく、途方にくれる。メニューを見て、レイアウト全体の云わんとするところを、すぐには視認・理解に至れず、何が何をどう表現しているのかわからず、つきましては何をどう注文すれば良いのかわからないおじいさんのていで、しばらくのあいだ、おどおどして、挙動不審な態度で、口をもぐもぐさせながら虚空の一点を見つめていた。そのまま、いかんともしがたい情況で、仕方がなく、メニューのいちばん大きく印刷された、目の惹く目立つやつを指差して、うぅー、これー。で、と言って、単品ですか?と言われたので、単品では不合格なんだろうと予想して、いやー、これと、あとこれもー。と、続けて答えて、これとー、これをー。・・・はい。セットですか?と聞かれて、えとー、そうー。と答えて、店内ですか?あ、お持ち帰りでしたね。といわれて、はじめてマトモになって轟然と、そうそう、持ち帰りだよ。持ち帰り。と、付け焼刃的な威厳をもって答えた。やたらとでかくて大げさな紙袋をぶらさげて、店を出た。歩きながら中のものを食べた。中のものは、暖められた温もりにつつまれていて、指先にじっとりと熱に蒸された油分を付着させた。それを口に運んで、雨が降ってきて、次第に強まってきて、全身を激しく水飛沫が跳ね始め、袋の中の熱さと直にぶつかり始める予感がして、それでもひとまずかまわず、食べた。手が油脂でどろどろになり、なにをどう持てば汚れずにすむか悩みながら、あれこれ迷いながら歩いた。しかしそれにしてもたしかにマクドナルドは便利だということはわかった。しかし、また再び今後、あと数年先までは食べないだろうとも思う。さらばだ。