カウンターの一番端の席に座っている。しばらくして、ぽつぽつと雨が降ってきた。店員が来て、小さな傘をくれた。挿すと直径50センチくらいしかない。こんな小さな傘をはじめてみた、と言ったら、それは自分の頭の上に挿すのではなく、手元が濡れないように挿すのだと、店員が言う。そう言われて、しばらく考えて、ああなるほど、と思う。要するに、手元の、飲み物などの、テーブルの周りを濡らさないようにと、くれた傘らしい。並んだボトルの間にうまく柄を差し込んで固定したら、自分の手前の空間だけ、見事に傘に守られた。グラスの中に水滴が入らないし、皿や食器も濡れないので、たしかに都合がいい。そういう自分は、さっきから頭の上にひたすら生暖かい雨がぽつぽつとあたり、髪はぺしゃんこで、額や頬からひっきりなしに水が流れ落ちていって、スーツの肩も足元も水でぐったりと重たく垂れ下がり、もはや手遅れと言って良いほどのずぶ濡れ状態になりつつあったが、でもこれはこれでたしかに、如何に自分がずぶ濡れであろうが、手元のものが濡れてなくてそのままちゃんとしている方がありがたいものなのだということがわかった。むしろ手元の品々を守るために、ここに座っている、そういうことなのらしい。