一緒に、山登りに行く?と言われたので、断った。そんなの、疲れるから嫌だ。家でだらだらしていた方がマシだ。相手は呆れたような顔で、そんなことを言う人を誘うんじゃなかった、と言いたげな顔。だったら、それまでだ。決裂だ。そう言ってそっぽを向く。場が、いきなり険悪な雰囲気に。


しかし、ふと思いついて、こう提案してみた。君たち四人で、僕をかついで行ってくれないか?神輿みたいに、二本の棒を渡した畳の上に、僕が乗って、それを君たち四人が、担いで山を登る。君たちは、思う存分身体を動かせるし、僕は、酒でものみながら、ゆっくりできる。良くない?もちろん只でとは言わない。謝礼は払う。いくら払えばやってくれる?


…相談の結果、ふつうに海外旅行に行った方が、よっぽど安上がりなくらいの値段を支払うことになってしまったが、それでも了承した。山の景色を見ながら、ゆっくりしたいと思ったし、もう断りきれなかった。その後、参加するにあたっての、細かい打ち合わせをした。

  • 山の入口までは自力で来る。
  • 携帯は全キャリア圏外でGPSも使えないらしい。
  • トイレは下の人がするときまで我慢する。
  • 前方から木の枝などが来たときは、畳の上にいるからといって無関心にせず、頭を下げたりしてなるべく努力する。
  • 瓶やコップなどが倒れるかもしれないので、畳がなるべく傾かないように慎重に運んでください。
  • もし下にモノを落としたら拾ってください。
  • たぶん酒と文庫本くらいしか持ってこないと思う。
  • 頂上近くのキャンプ場に一人で住んでいる狂った老人がいる。鉢合わせになったら、戦闘状態になる可能性が高い。もし老人の姿が見えたら、上にいる僕が、すぐ下の者に知らせる。上にいると、相手からも発見しやすいので、見つかったらおそらく標的になる。運が悪いと死ぬかもしれないが、それでもいいか?
  • 大丈夫。僕は畳の上では死ねない男。