真夜中のカーボーイ」を観てから一週間経った。そして、中間テストまであと一週間となった。きのうは僕はとうとう水泳部を退部した。最初、U先生に退部を宣告した。別に未練も何も感じるはずはなかった。しかし、話が終わり、退部が正式に成立して、とてももの悲しい気分になった。一年から夏にかけての、ぼくは水泳部で素敵だった。とくに水不足の夏は泳げないときもあったが、後半は泳ぎ、強く、あつい日差しの中でとうめいな光のアミをかき分けて泳いだ。とてもうつくしく、健康的だった。


それで、一つの僕のピリオドがうたれた感じだ。くぎりみたいになって、僕は正式に美術部所属という肩書きの人間になった。


またコラージュをした。でもまとまりのない下らない作品だった。考えてみれば、習作もなしにいきなりやって、仮にいい作品ができたとしても、それは偶然でしかない。そんなのを美術室に持っていって「センスある」なんて言われて手放しで「いい気持ち」を躍らせるなんていやだ。


今日は「ああ、才能なんてない。」と強く感じた。僕は自分の未来をみてしまった。きのう、三冊目の日記のタイトルを考えていたら三十分も使った。それでタイトルを「Idea」にした。もう、そろそろこの日記も終わりだ。テストが終わったら、またきっと自由が丘に映画を観に行くだろう。それから、きっとI先生の個展に行って、そこで先生にばったり会って、コーヒーを飲んだりするのだろう。もしそうなら、素晴らしいのに。そしたら、写真を撮らせてもらおう。それで、40号のキャンバスに肖像を描こう。それをコンクールに出して、去年みたいに賞をとろう。その絵は白っぽい絵で、きょうれつな緑がシックなムードでのぞいているような絵だ。バーントシェナのグラッシュで抑えてあって、すごくシックなムードだ。それで、その絵には空間がある。その空間は、そぼくで、微粒子的な空気だ。Nさんの空間みたいに。それでいて、その空間はにおいがある。そのにおいは、まずI先生の髪のにおいみたいな、いいにおいだ。それと先生の顔のようなはっきりとしたにおいと、先生みたいに素朴で上品で、ザラリとした手ごたえの感触のあるにおいで、それが色にすれば、まあ、カドミウム系の強いグリーンなんだけど、原色なのに、中間色のやさしさをもって、せつなさを感じさせるような、そんな空間がその絵には出ているのだ。


結局、何を言いたいのか。…この日記、三冊目のこの作品「Idea」は失敗作と言えるかもしれない。僕はさっき、ベッドに入って考えた。それで最近、僕が欲していたことを。僕の考えていること。僕の求めていることは全てこれにのっている意味もなく思っていた。でもよく考えてみたら、半分くらいしかのってないんじゃないか。僕はもっとCONCEPTという言葉を使えばよかった。結局、CONCEPTなんだ。僕はその言葉をいうためかきつづけている。コンセプトなんだろう。僕が今から寝て起きて、学校に行く。ふだんなら、授業をうける。昼休みをすごして、帰って、予備校に行ったりして、デッサンをして、美術について考えたりして、I先生について考えて、女性のことを考えたりして、Wのことを考えて、自分のことなんかも考えて…そんなふうにそのときぼくは常にコンセプトでうごく生き物でいたい。僕はつねに自分のうちたてたコンセプトにおいて思慮したい。ぼくはすべてにおいて確実なコンセプトがほしい。そのとき確実ならいいんだけど、いつでも作り変えたいときに、作り変える。


ぼくはいつかこんなぼくの気持ちをちゃんと整理て、まとめてみる。そうして小説でも書くかな。とにかく、この不可解な気分を、何とか理解したい。というか…。


洗濯物を干したあと、雨がふってきたのですぐにとりこんだ。それで、いい具合の雨だと思い、パルコに行った。絵の具が高かった。バーミリオンは1500円もして買えなかった。それから八重洲スター座に行った。スター座は小さくて、きたなかった。ぼくは気に入った。それで、ストレンジャー・ザン・パラダイスを観た。前にも観たので、二回目だった。それで、二回目の方が良かった。でも一回目をみたときのあのころがなつかしい。


そのあとスケッチをしようと思って、改札口周辺をウロウロした。最初にバス停のあたりに立っている女性を描いた。でも全然良くない。又、ウロウロした。宗教女に声をかけられたりした。とりあえず、コインロッカールームを描いた。まあまあだった。それから、下水道を描いた。汚い下水道だが、いいムードだ。ニューヨークの裏にありそうな感じで、それは真面目に描いた。新宿に移動して、道にいた女を描いた。上手くいかないので、描き終わってないが、やめて歩き出した。それと同時に、その女性の男友達が来た。「良かったですね」と心の中で声をかけた。新宿で、またいつものとおりの気分になってきたが、その日はいくらか落ち着いていて、そのまま帰った。今日はいい雨がふっていて、いい日だった。