起きたら既に雪が降っていた。今日食べるものを買わないといけないし、酒も無いので、積もる前に買い物に出かけることにした。登山靴を履いてリュックを背負って出た。爪先の側にやや体重をかけるようにして、歩幅を短くして歩いたけど、思ったほど寒くないし、歩くのも容易で、冬山登山の気持ちで俯いて黙々と歩く。視界は満遍なく雪が映像ノイズみたいに動いている。とても粒の細かい雪で、濡れた黒いアスファルトに、まるで霧吹きで吹きかけたようなうつくしいグラデーションの白色が薄く上塗りされていて、新鮮な純白の上を歩くと、自分の靴跡がまるで墨の黒のように鮮やかに残る。降雪量は目で見ていてもはっきりと多くて、しかも延々と続いて降り止むことがない。一時間もしないうちに帰ってきて、午後はずっと家に居たけど、雪はとにかく降り続けていて、こんなに降るのはたしかにここ数年、もしかすると十数年とかそれ以上、記憶に無い。夕方になって、ベランダの柵に十センチ以上雪が積もっているので、妻がその雪を手で固めて転がして、小さくて、いいかげんな雪だるまを作ったが、その雪だるまも三十分もしたらすぐに雪に埋もれてしまって、日が落ちて夜になっても相変わらず降る勢いは変わらないように見えて、空に舞う風雪がまるで安物のドラマみたいで、こんなの見たことない、と思う。そして、これを書いている今も、もしかすると、まだ降っているのか。だとすれば朝の様子、午後の様子、夜になってからの様子、それぞれ全部違って、このまま深夜も明け方も降るとして、明日はやんで、雨になって皆洗い流されてしまうのかもしれないが、とりあえず丸一日降ったのだとしたら、それほどの雪とはすごい、し、雪の降り始めから降り終わるまでが、ひとつの映画みたいに思われる。僕は冒頭の一時間しか観てないけど、その映画は半日以上、二十時間近く上映していたのだとしたら、あと、ほかにどのへんを見逃してるのか、どのへんを観たら良かったのか。