酷い虫歯になって歯医者で治療したあと、局部麻酔の効き目がなかなか消えないので、その日の午後はずっと口の片方がちゃんと動かなくて喋ったり笑ったりしても口が半分動かないからヘンな顔になるわ飲物を口にいれてもこぼれそうになるわで、夜になってようやく麻酔が切れてきたと思ったら痛みが甦ってきてしかも治療前よりも悪化したのでは?と思うくらいの痛みで、それを紛らわすために自宅で一人で酒を飲んでたら飲み過ぎてつぶれてトイレに篭って苦しんでヘトヘトになって寝て、翌朝は二日酔いで最悪のコンディションで、しかもまだ歯も痛くて、ほんとうに踏んだり蹴ったりの休日だったという話を友人から聞いて、そうなんだ。でもそれが生きることのリアルってもんでしょ。その痛みこそがさ。だいたい、僕なんかはそういう苦痛は最近はあまり無いけど、むしろ中途半端で曖昧な記憶にもならないような記憶の断片だけしか残ってないような毎日になりつつあるような気がして、むしろそっちの方が嫌だよ。最近酒飲むと記憶が飛ぶことが多くてこのままだと認知症になるかもしれないし。記憶も財布のなかの金も、溶けて消えていくみたいで、一日とか一週間とか、半年とか一年とか、そういう時間が全然何の厚みもなくて、さらさらと水みたいに流れて行ってしまうようで、なんかおそろしく退廃的で空虚な気持ちになるよ。こんなにおだやかでさらさらしてていいのかね。これなら痛みの方がまだマシかも、なんて思うこともあるよ。いや実際、僕はからだの痛みには超弱いけどね。痛いのは絶対に嫌だけどね。でも記憶を失うのもキツイわ。認知症というものへの恐怖というか不安って最近はじめて感じるようになったかも。でも人間が頭の中でいくら色々考えても、結局自分の身体の枠の中にしかいられないし、身体は駄目になるまでは動き続けていて、で何か問題が起きるとアラート出すために苦痛とか感じさせるじゃない。で、いつか死ぬときもそのアラートがめっちゃ出まくって、緊急事態みたいなことになって最後システムがダウンして終了ってことになるんだろうけど、その過程も脳が正常じゃないと感じられないから、先に脳が壊れてたら生きるも死ぬもないわな。でも、たとえば昨晩のことが思い出せないって、嫌なものだよ。人生のうち昨晩だけ消えてしまったようなものだよ。記憶に不具合を抱えて、そのまま身体が死んでしまったら、人間は自分が死んだとはわからないだろうな。死んだ後に、飲み過ぎた次の日みたいに、あれ?昨日の夜、おれどうなったんだっけ?みたいに、不思議な気持ちになったりしないだろうか。もう身体は無いのにさ。などと話す。