深津さん


岸辺の旅の、深津絵里さんの、この物語が始まる前の、夫が失踪していた三年間のことを知りたい、というか、深津絵里演じる登場人物のその三年間のことが好きだ。


それにしても夫の幽霊は幽霊になっても自分のことしか考えてないではないかと思うが、いや、待て、だからそれは、夫の幽霊は夫じゃなくて、妻なのか、と思うと、それはとても寂しいのだが、でも寂しくないじゃないか、それでいいじゃないかとも思う。ベアの片方が死んだら、もう片方は幽霊と一緒に生きるのは、当たり前のことじゃないかとも思う。


深津絵里蒼井優と話をするとき、なぜ蒼井優を独身の女だと思ったのだろうか。そう思ったから、意外な言葉に衝撃を受けることになってしまった。あれは、どちらが如何にももっともらしいセリフを言えるかの競争で、深津絵里はそれに負けるのだが、むしろ負けてよかった。ぼくはその、実際は何も持ってなかった深津絵里さんのことを深く愛する。


深津絵里さんは最後、夫が去ることを受容するように見える。そのことを選んだようにさえ、見える。祈りの文書を焼いて、さっさとフレームから去ってしまう深津絵里さんと、残された景色が映画の最後だった。僕はこの映画に登場する深津絵里さん以上に、この映画が始まる前の時間を生き、終わった後の時間を生きようとする深津絵里さんのことを深く愛する。