シェフ


はじめて行った店で、とくに一人で、コースで食事をするときなど、最後のコーヒーと共に店主が席まで出てきてくれる事があるが、そういうとき店主が「こいつ何者だ??」という気持ちを少なからず持っているのを、客の自分はかすかに感じるものだが、そういうとき僕は「自分は酒を飲むのが好きなので・・・」という話をする。何を言いたいかと言うと、おおいなる目的として、酒を飲みながらおいしいものを食べたいから、お宅にお邪魔したんです、という事を言いたい。間違っても、「食べ歩きが趣味」の人ではございません、ということを言いたいのだが、その意図が伝わっているかどうかは、あやしい。少なくとも「食べ歩きが趣味」の人の経験豊富な感じが、僕にはいっさい無いのだから、そんなことをことさら言わなくても良さそうなものではあるが、しかしごくたまに「酒好き」だと伝えると若干メニューにそれらしき手ごころが加わったりすることもあるので、言ってみたほうが良いと思っている。


フレンチなんかだと、いやそれに限らないだろうけど、何しろ老舗とかで無く資本系とかチェーン系とかもでもなく、個人として最近出来たところであれば、当然ながら若いシェフが多く、ほとんど自己技術だけで打って出るという、何の確証もなく拠り所も無い、じつは現代美術のような、銀座一丁目のような感じのするフィールドでの活動に共通する何かがある。誰も彼もが、採算度外視というか、いや度外視はしてないけど、素材を生かすために郊外で、とか、都心で戦略的に、とか、思い思いにたたかっているのだろう。そして、五年とか十年のスパンでみていったら、きっとものすごい淘汰の流れがあるに違いない。それが面白いとは、僕は別に思ってなくて、僕は単に「自分は酒を飲むのが好きなので・・・」というスタンスなのだけど、よくよく考えると、僕がレストランで誰かと出会うわけではないなと思う。僕がレストランで、誰かが誰かと出会っている、もしくは誰かが非人間的なモノと出会っている、のを見ているのだな、と思う。いや、もっと非人間的なモノと出会おうとするシェフに出会いたい。どうしても自営業の顔になってしまうのだろうけど、できればモノと出会おうとするシェフに出会いたいと思うのだが、どうか。