ミライ


桜木町の駅から野毛に行く途中の地下のベンチに、人が座っていた。


その姿を見て、一瞬あれ?と思った。しげしげと見た。深めに帽子を被って、やや厚手の、外歩き風というか身軽そうで防寒にも優れていそうな上着を着て座っている。服装だけだとわからないが、その横顔を見るとおそらく60代後半から70代くらいの女性である。


その座り方なのか、背筋の伸び方というのか、足の揃え方というのか、横顔のまなざす視線の位置というのか、そういった、単体では言いがたいような諸々のいくつもの要素が、おもしろいくらい、自分の妻に似ていて、一瞬、目が釘付けになった。


完全に、お婆さんなので、もちろんそれは、妻ではない。しかし、見れば見るほどそこに、妻が座っているように見えるのだ。


ある意味、他人が、しかも相当年配な、お婆さんが、自分が歩いているこの場所の、すぐ前のベンチでなぜか唐突にも、自分の妻のモノマネをしているのを、出し抜けに目撃してしまったかのようでもあった。そして、そうそう!ウチのアイツは、こんな感じなんですよ!まさにそう。似てる!!と、言おうと思えば言えるような。


わりと普通に歩き去った。あまりしげしげ見るのもアレだというのもあるが、まあ、そういうこともあるだろうとも思ったので。


しかし、おそろしいことだよ。なんだか三十年後が急に見えたような気がした。


もちろん、そのおばあさんは一人だった。連れはいなかった、と思う。(トイレに行ってたのかもしれないが。。)