毎週そうだが、土曜日は朝の四時か五時、ホテルの部屋で目を覚ますとすぐに起き上がり、いそいそと着替えて荷造りして部屋を出てフロントを呼びつけてカードキーを返却すると、始発が動き始めたばかりの横浜駅へ向かって脇目もふらずに歩き出す。睡眠時間足りてないし、チェックアウト時間までには余裕もあり急ぐ必要はないのになぜかそうしたくなる。見上げれば曇り空の朝、午後から雨の予報。

帰宅してシャワーを浴びて、朝食を摂り、しばらくして眠気におそわれ、そのまま午前中を眠ってしまう。目覚めたらすでに雨は降っていて、傘をもって出掛けて近所でさっさと買い物を済ませる。建物の庇の下のベンチに座ってタバコを喫ってる爺さんの脇を通り過ぎたとき、その煙の匂いに、自分が喫煙していた時代を思い出して、神経が充足したときのなつかしい記憶が、脳内にあざやかに広がったような気がした。そのときその爺さんと自分とが、ベンチに隣り合って腰かけ、話をしている様子が、目の前に幻想のような情景として浮かび上がってきた。僕は二十年前にタバコは止めました。でも未だになつかしいと感じる。あなたはこれまで、ずっと喫われてきたのですか?お酒は、いかがです?今でもたしなみますか?よろしければ、ビールでもいかがですか?そこで買ってきましょうか。爺さんは僕が買ってきたビールを受け取り、それから自身のことを、言葉少なにぽつりぽつりと話し始める。僕は相槌をうちながらその言葉に聞き入る。それは、まったく予想外な、驚くべき内容の話だった。これまで誰がどんな過去を生きてきたのか、それはこうして言葉にして表されなければ、ついぞ誰にもわからないままで消え去っていくものだと実感させられた。

午後から美術批評家連盟のシンポジウム配信を見たり、夜はODD ZINE vol.4刊行記念オンライントークイベント配信を見たりする。夕食時は、気持ちやや飲酒量を控えめに…控えめに留め置いた夜の時間というものも、少しは大事にしようと思う。