8トラック

YerBlues、あらためてApple Musicの音源を聴いたら、おそらくそれ用にリマスタリングされているのだと思うが、音質が悪いという感じはしない。むしろクリア過ぎる気がする。

「YerBlues 録音」で検索したらこのサイトが見つかって(https://beatlesdata.info/11/02_yerblues.html)、「どのように作られた曲なのか」のほぼ完全な回答ともいうべき記載が。なるほど8トラックの衝撃、当時それがもたらしたインパクトの大きさが伝わってくる話だ。

8トラックは個人作業を容易にした。それは不可逆的だった。それぞれのトラックは後で結合されたり分割されたりするのが前提となった。それで皆が未だ見えない何か、聴こえてない何かを想像しながら、それぞれの仕事を個別に行った。そして、集まった素材は別のフェーズにおいて加工された。ほんの少しでも違和感を感じたらすぐに廃棄して、気の済むまで何度でもやり直すことが可能だった。

そういうのは、それまで想像することさえ難しかった。でもそれが登場してしまったら、それがあたりまえになる。むしろそれが無かった時代を忘れてしまう。インターネットが登場して、一気に中間をすっ飛ばして何かを繋げてしまうことを可能にしたのと同じだ。

インターネット以降、これは後でネットワークのパケットと化して拡散分離してタイムレスで共有されることを前提にして作られたものだという、その痕跡がはっきりとわかる、そう思えるような作品はおそらくたくさんあるだろうけど、8トラックやシーケンサーがまだ今ほど普及してなかった頃の音源に感じられる独特の感触、インターネット以降の時代に、それと同等な手触りをたたえた作品があるのだとしたら、その手触りこそが、原初に充溢していた新鮮なインターネットそのものの手触りなのだろうか。本来無臭で廃棄物も出さないテクノロジーが稼動し始めの瞬間だけかすかに立ち昇る煙と匂い(の幻覚)のようなものだろうか。