傘を買うために、会社の向かいにあるデパートに立ち寄った。しかしどうも傘を売っていそうな店が、フロア案内図に見当たらない。売ってないわけはないだろうが、よくわからない。そもそも、傘とは、どこで買えば良いのか。むかし、あれはたしか東京駅の丸の内口にあった、文房具とか鞄とかを売っている店で、そこに陳列されていた傘を、買ったことがあった。それに、東急ハンズだったかロフトだったか、そんな店でも、やはり傘を買ったことがあるはずだ。あと、どこの駅か忘れたけど、駅の中の、主に女性が好みそうな、雑貨だの食器だのが売ってる、そこで男が使っても別にいいんじゃないの?と思った傘があって、それを買ったこともあるはず。思い浮かぶ店といったら、そんなところだが、ああいう店は、たまたま立寄っただけで、はじめから傘を買う目的でおとずれたわけではなかったからナー、と、しばらく考えて、今日は買うのをあきらめて、明日にしようかと思った。でも明日には、雨かもしれないのだけど…。歩いていると、しばらくして駅の手前にある別のデパートの入口が見えてきて、念のためにと思って店内に入ったら、いきなり、傘が売っていた。長靴を履いて傘を挿している人物のイラストが描かれたパーテーションの内側に、傘だけでなく防水靴だのレインコートだのがたくさん並んでいる。女性用ばかりかと思ったが男性用もあったし、思ってたような傘もあった。選んだ傘を手に持って、会計する場所を探すと、商品棚の奥まったところに、花柄のワンピースを着た女性が一人、広げた傘を丁寧な手つきで畳んでいるところだった。これを下さいといって傘を差し出すと、女性はおずおずと受け取って、青い袋に包んでくれた。まさに今が、旬の買い物ですねって、そんなこと言ったら、まるで魚屋さんではないか。よく見るとその女性の着ている花柄のワンピースは、膝あたりの裾から持ち上がってテーブル上でたたまれようとしている傘とつながっていた。傘が、洋服の一部なのだった。