土曜日に行ったレストランでは、注文するパスタの量を10グラム単位で指定できるのだが、我々はこの店に何度来ても自分たちの適量が何グラムだったのかを忘れてしまう。前に来たときは、たぶん150グラムずつでお願いしたんじゃなかったか?で、多かったよね?だったら今日は100グラムにしておくか?と決めるのだが、それが間違いで、実際は前回も100グラムずつだったのだ。各々100グラムでは多いのである。正解は、150グラム一皿を二人でシェアすることなのだが、注文のときに、毎回それを忘れてしまって、同じ間違いを繰り返しているのだ。もちろん100グラムなんて少ないと言う人も多いだろうけど、その他の前菜二皿くらい合わせると我々には多すぎるのだ。まあ年齢と共に食は細くなっていくものだろうが、最近はアラカルトで注文するにも、あれもこれもと頼みたがる自分ですら、量が心配でメインの注文を躊躇することがある。
しかしその前夜、たしか金曜日は、時折やってくる「肉を食べたい」欲望を満たすため、あえて二百グラムもの牛肉をスーパーで買って帰ったのだった。自分が一人で食す量としてはあきらかに多すぎるのだが、そういうときのテンションは夕食ではなくて明らかに個人的謝肉祭的な宴であるゆえ、儀式を成り立たせるための最低分量が必要とされるのだ。ただ僕の場合牛肉はアメリカやオーストラリア産の安価な肉で充分で、むしろ国産の霜降りよりもそれらを好む。これを塩胡椒だけでフライパンで加熱して、それに大量のルッコラとかベビーリーフなどの野菜を大量につけ合わせる。ほとんど緑色の葉の中に肉が埋まってるような状態にしてそれらを一緒に食べる。ちょうどカツオの刺身に大量の玉ねぎの薄切りがぜったいに欠かせないのと一緒だ。玉ねぎを大体一個分まるまる薄切りにして皿に敷き、切ったカツオを上に乗せ、そして摺った生姜とやはり大量に刻んだネギを乗せる。とにかく大量の野菜が必要なのだ。肉も魚も野菜の付け合わせくらいに思ってる。昔はそうでもなかったのだが、最近はこれ以外の食べ方を考えられない。
ちなみに他家ではどうだか知らないが、うちでは自宅での食事にワインを合わせる場合ほとんど白ばかりになる。二人の嗜好のせいで肉料理は豚肉、鶏肉の占める割合が多く、赤に合わせたい味わいはあまり食卓に上がらない。そもそも何なら赤に合うのか、その好みや考え方は人それぞれで自由勝手だが、牛肉を焼くみたいな今回のようにストレートな料理でなければ、しいて言えば酒、みりん、砂糖、醤油を多く使った色の濃い煮物、照り焼きとか、ある種の中華料理とか、すき焼きだとか、僕ならそんなところを思い浮かべるくらいで、それでも別に、白でかまわないといえばかまわない気もする。しかし肉を焼くなら、そのためにわざわざ買ってきたなら、希少なチャンスなので一緒に赤ワインも買う。買うのだが、べつに張り切って購入するわけではなくスーパーに並ぶ安物テーブルワインから適当に選ぶだけだ。それだと生産国も品種もあまり参考にならないし期待できないのは承知の上で、肉に合わせるならあくまでも僕の嗜好的には、せめて甘味の勝ってるようなやつは避けたくて、ふくよかさが予感されるチリあたりのやつは避けて、安物らしく余韻も広がりも小さくてかまわない、頑迷に閉じていてくれていい、ただしきりっと口腔内に厳しく広がってほしい。…などなど考えはするけど、でも大抵、そんな願いはかなわない。そもそも赤を買う経験が少ないから勘が働かないのもあるけど、まあ、煩いことを言うならもっと金を出せよということでもある。せめて三千円代くらいなら、まあそれなりに納得なやつはあると思われる。