Konkyoless

最初から欠落していた。根拠はなかった。
根拠がなくてもかまわなかった。そんなことで一度も悩まなかった。
根拠がないまま、私は私を愛していられた。
そうではない人もいた。むしろそうではない人が殆どだと知った。
皆が根拠を求めた。でも根拠はないから、代替を求めた。
代替を手に入れて、ようやく自分を愛することができた。
自分を愛すると、自分が自分を愛するように、自分が誰かを愛するのかもしれなかった。
他人が自分を愛する可能性さえ、想像することができた。
根拠がないのに、可能性だけが広がるのだった。
代替を手にした私にも、ようやくそれがわかった。、
元々私は私を愛していた、そのはずだけれども、私は代替を手にした私をもう一度愛した。
いささか複雑な気持ちではあったが、そのようにした。
私がもう一度愛した私は、私が私を愛するように、私も誰かを愛するかもしれず、
ことによると誰かから愛されるのかもしれない自分だった。
これでようやく君も、性愛の行為に向かう準備が整ったのだと、そばにいた友人が私にこっそり耳打ちした。
誰かと出会い、互いに何かを投影し合うために必要な最低限の準備、それがあの厄介な代替品の荷物の山らしいのだった。
それでも最初から根拠そのものはなくて、それは変わらない。
でもそれと言わなかった。相手もそうは口にしなかった。
不安を押し隠して、お互いに、わかったふりでことをすすめた。
このやり方で、本当に間違ってないのか。その不安は終始つきまとった。
単に、自分の内側から、相手のドアをノックしてるだけじゃないか。
同じように相手も、外からノックしてる、その音だけは聴こえるけど。
いや、誰もがそうなのだ、そういうものらしい、深く考える必要などない。。
やけにはりきって元気のいい、つるっとした顔の男が、すべてわかっているとでも言いたげな表情でそう教えてくれた。
それで私も、相手に曖昧な笑顔を向けた。
やがて、いつの間にかそんなことを忘れた。根拠がないこと自体を忘れてしまった。
今でもまだ、忘れている。