走ってきたタクシーが、歩道にいた僕を追い抜いたあたりでスピードを緩めて、ぐるりと旋回して逆方向を向き、反対車線に乗って走り去っていった。古めかしい形の車だった。四角く平べったい立方体が、四つのタイヤの上に乗ってるような形だった。きっと運転手は周囲を見回して車も人もいないので、これをチャンスとばかりに躊躇なくUターンを試みた。ウィンカーを出し、ハンドルを大きく切って、外側に流されようとする自分の姿勢を腕の力で支える。車内にある小物がいくつか動いて音を立てる。二つの前輪が揃って同じ方向を向き、遠心力によって四角い車体がグッと斜めに傾く。タイヤは路面に強く擦り付けられて圧縮されたような苦し気な音を立てる。コンパスで正確な半円が描かれるかのように車の向きが反転し、丁度反対車線上に乗って旋回運動が終わる。そのままスムースにアクセルを踏みむ。エンジン音が高まり、車は緩やかに速度を上げる。