彼の人

デパートの屋上のビアガーデンは蒸し風呂のような暑さと消えない残響音のような騒がしさに満ちている。

 

軽く酔って、若い子と喋って、少し大きな声で笑って、椅子の背もたれに背中をあずけて身体を肘でささえて、ビールのジョッキを持ち上げている自分がいる。その姿を思い浮かべたとき、それはほとんど昔の父の姿に見える。調子づいて、楽しげに、浮かれている。何か喋ってる。父は死んだけれども、まるで父のような人間が、今もまだこの世に存在していることを実感する。

 

しかし、いずれはいなくなるだろう。父のような人間はいつかこの世から消える。あれが最後の一人だ。