今泉特集1

日本映画専門チャンネルで、今泉力哉「サッドティー」(2013年)を観る。この物語における恋愛感情は、常に一方通行型の伝文になっている。彼氏と彼女という安定した関係はかりそめのものでしかない。それは一方通行型の伝文を受信した側がひとまずそれを拒否していないというだけだ。だから関係の継続は恋愛感情に支えられているというよりはお互いの利害関係によって支えられていると言った方が正確だ。だから婚約相手が暴力的だろうが、二股をかけられていることをわかっていようが、継続する関係はある。そして誰もが、恋愛の関係が長く続くことを信じられないし、自分が誰かをいつまでも想い続けることができることが出来るとも思えない。しかしその一方で、ほとんど脊髄反射のようなスピードで誰かは誰かを好きになってしまう。昨日まで続いていたかりそめの安定はあっけなく崩れるし、十年間想い続けたはずの感情もある出会いを経て数時間したらどうでもよくなってしまう。そのような移り気であやふやなものでしかないのに、なぜそう簡単に「人を好きになった」と言えるのか。それを信じられない人、信じたい人、あまり興味がない人、がいる。その群像劇が図式的・抽象的・戯画的に、ワンシーンごとにあらわれる出来事に対して、観る者が考えを巡らせながら物語を追うことができるように作られている感じだ。