帰りの電車で、はっとして目が覚めたら東京駅で、自分の前に、かなりな爺さん、という感じの、爺さんが立っていた。しょうがないので立ち上がって、どうぞと席を譲ったら、爺さんは、のそっとした目でこちらを見て、いや、いいよあんた座ってなよ、俺はいいよ、とかなんとか、ちょっと予想と違う感じの反応を示した。僕は、いや次で降りるんで、、と言って、どうぞどうぞみたいな感じでやや強引に勧めたら、爺さんは、そう?じゃあいいや、わかった、じゃあ、すまないね、俺も次で降りるかもしれないけどさ、みたいな感じで、わりかし素直に座ってくれたので、ややほっとした。で、その直後に、人がけっこうたくさん乗ってきてかなりの混雑になったので、僕はその場から少し離れてしまって、座った爺さんの前には、また如何にもな、いい感じのばあさん二人連れが来た。そしたらその爺さんが、ばあさん二人に話しかける声が聞こえてくる。座るかい?疲れるだろ?どこまで行くの?俺が替わってやろうか?いやでもさあ、俺もたった今、替わってもらったばっかりなんだけどさあ、、…で、その後もひたすら、どうでもいいような話を、けっこうデカイ声で、ずっとばあさんたちに向かって喋り続けている。その合間合間に、ばあさんの、はあ、はあ、ははは、という、とりつくろったような、苦しいような、愛想笑いを含んだ相槌の声が挟まる。なんとなく自分がきっかけで、あけてはいけない蓋をあけてしまったような気がしたけれども、しょうがない。自分はもう関係ない。ぜんぜん明後日の方向を向いていた。その爺さんは上野で降りた。僕も上野で降りた。降りてきょろきょろしている爺さんの前を、僕は何も言わずにすっと通り過ぎて歩き去ってしまった。
電車で人から席なんか譲られるのは、たぶん、きっと嫌なものなのだろうね。