時間旅行

ハインライン夏への扉」を読んでいる。この作品は1956年に刊行されているが、時代背景は1970年のロサンジェルスで、本作の主人公は、冷凍睡眠を経てそこから30年後の2000年に蘇生する。つまりハインラインは作品執筆の時点からおよそ15年後の未来に生きる登場人物たちを書くと同時に、彼らにとっての30年後である2000年も書いている。しかし1970年におよそ30歳前後である本作の登場人物にとってきたるべき2000年は、べつに冷凍睡眠などの技術を使わなくても、このまま年齢を経て平均寿命を大きく下回る若さで亡くなるようなことさえなければ、自然にその時代へ行き着く可能性が高いような未来であるとも言える。しかし1907年生まれの、本作執筆時点で50歳を目前にした作者のハインラインにとって、自身の寿命が西暦2000年にいたる可能性はそれほど高くはないと思っていただろうとも思う。とはいえ1970年であればハインラインは63歳だから、その未来への距離感覚は、登場人物たちにとっての2000年とさほどの違いはない。科学技術の発展予想を根拠に描かれる客観的未来像とは別に、自分の寿命予測をもとに想像可能あるいは不可能な未来像もあるだろうか(これは「夏への扉」についての感想ではなくて、いま考えたことを書いてるだけ)。ハインラインは1988年に亡くなる。そして50歳を目前にした読者である僕が「夏への扉」を読んでいる現在は2020年であると伝えたい。ハインラインに、というか、本作の登場人物たちに。