スーパーの魚売場で、鮎と虹鱒を買って、家で塩焼きにした。初夏の虹鱒と白ワイン、それはつまりヘミングウェイ、たしかに、これを自ら釣り上げて、火に当ててワインと共にその場で食べたら、それはさぞかし美味しかろう。

鮎とくらべると虹鱒はかなり凶悪な顔つきをしている。全体に海の魚よりも川魚の方が、表情におおらかさがないというか、海と較べて川の連中の方が、これまでそれなりの不幸をなめてきた顔つきをしている気がする。マグロだのイナダだのタイだのアジだのは、大きな目をつぶらに見開いたまま、ほとんど何もわかってないままに絶命して、今も幸福のなかにいる感じがする。

youtubeで、鰺を包丁で三枚におろす映像を、食い入るように見る。10分かそこらの映像だが、まるで自分がそれをしているかのように、精神を集中させて、手ごたえや質感をしっかりと想像しながら見る。三枚おろしは、ずいぶん前にやったことがあるのだが、そのときは、ダメだこりゃ、と自分に言ってやりたいような仕上がりだった。一応は全工程を踏んだのだが、一つ一つがあまりにも遅くて手戻りが多い。子供が粘土で遊んでるみたいな感もあり、我ながら出来上がったこれを食べる気にはならない…と思わざるを得なかった。映像を見ていると、やはりスピードが違う。早いというよりも正確なのだ。頭を落とすときの力加減とか、中骨から身を離すときの包丁の入り方とか、皮を剥ぐときの力とか、持ち方とか、見て何度でも頭の中に思い描く。見終わったあとは、なぜか妙な達成感をかすかにおぼえた。