血抜き

二尾の魚が、どちらもまだ盛大に鰓や口元をうごかしていて、時折強い力で身をくねらせて寝返りを打とうとする。これほどしっかりと動いている生きた魚を見ていると、まるで水族館にいるような不思議な気分になってくる。

え?私がやる?と、従業員の女性が言う。この人にできるのだろうか、とこちらは声に出さず思う。まあやるけど、と言って、強く身をくねらせて抵抗する魚の身体をぐいっと掴み、喉元を指でこじ開け、内側の固い部分にハサミを差し込んで断ち切ろうとする。魚は苦痛に飛び上がって暴れ、一度は手から離れて、ステンレスの流しの上に音立てて落ちる。ちょっと逃げないでよーと、まるで猫と遊んでるみたいな声で、その身体を拾い上げ、もう一度同じようにハサミを入れようとする。やや逡巡したあとで、バチっと刃が合わさった音がこちらにまで届いて、作業の様子をカウンターで見ているこちらの身も一瞬すくむ。ひきつづき奥までハサミが入る。水道からは水が流され続け、水がいっぱいに張ったバケツの中に、魚とハサミを掴んだ両腕を沈めて、水中でなおも作業を続ける。バケツの底から赤い煙がもくもくと昇ってくるのが、ここからも見える。よしオーケーと言ってバケツから取り出す。魚はもう動いてない。ほら見て見て、と言って、仕上がりをこちらに見せてくれる。魚の喉元がおおきく切り開かれて、中にあったはずの、細かく整然とした刷毛のようであっただろうエラが、きれいさっぱりなくなっていて、その部分がぽっかりと空白になっているのがわかる。すごい、見直した、見くびってすいません、感心、大したものだ、尊敬する、とまでは言わずに、お~すごいね~と言う。