ふらつき

男子高校生がスマホを見ながら歩いている。僕はその後ろ姿を見ている。じょじょに近づいてきて、彼と並びかける。うつむいた横顔を見て、手に持ったスマホの明るさを見る。画面に何が映ってるのか知らない。手に持った小さな平面を見つめながら、ゆらゆらと歩いている。ゆらりゆらりと、歩調もおかしい。横断歩道の手前、逡巡するような蛇行するような、不思議な軌道を描いて、ゆらりゆらりと歩く。まるで、酔っ払っているようなふらつきかた。前進と左右への蛇行が織り交ざって、体調が悪いんじゃないだろうかと思うほどの、ほとんどよろめくような姿勢だが、眼だけはしっかりとスマホ画面を見つめている。わりと広い歩道で、ときおり自転車が通り過ぎていくけど、周囲は誰も居らず、そんな歩き方でも、とくに危険はなさそう。それにしても、すごい、あんな無防備に無警戒に、状況判断力ゼロのままで歩いていて、あの歩き方は、僕ならいまは逆に無理だ。自己を統制しよう、きちんとしよう、歩くということを成り立たせようという意識が、かぎりなくゼロに近い、健全なる分裂症みたいな、あれこそ、高校生なのか。いまの自分は、全然あんな生き方じゃない、と思った。もしかして中年以降の人間は、すでにああいう歩き方ができなくなってしまったから、それを求めてわざわざアルコールなどを摂取しているのではないか、居酒屋で大騒ぎしてる酔っ払いは所詮、平日午後の下校時の高校生のふらつき方をなつかしがっているだけなんじゃないかと思った。なにしろ、あの歩き方は見習うべきだと思った。