昼頃

正午間近か、ごく近所なのに、今まで歩いたことのない道だった。住所としては隣町になる。このあたり一帯、どこも似たような住宅地ではあるのだが、うちの近所とは何かがちょっと違う。見慣れた光景ばかりのようでありながら、どことなく違和感をぬぐえぬこの感じ。例えるならば、小中学校の自分のクラスのとなりの教室に入ったときの感じが近い。見慣れた景色のようでいて見渡したときの雰囲気も人々の集まってる感じもすべてが自分のクラスの印象とは微妙にズレていて、でもあたりまえのように存在してる感じ。

自動車が狭い路地を注意深く通り抜けるのを待ってから道路の反対側にわたると、お寺の敷地にそびえるケヤキが陽を遮ったその一帯だけ暗くて、水を撒いた後が路面に黒く残っている。近くにある小学校から子供の声が聴こえてくる。この時間なら当然、子供たちは授業中か。子供が授業を受けている時間に、自分がこうして道端をうろついていることは稀にある。警察官をわりと見かける。紺色のベストに白いシャツ。婆さんと立ち話している。詐欺に注意せよと呼び掛けているらしい。

晴天で気温も高いせいか、あるいは換気のためか、並んでるどの家の玄関も、ドアが大きく開けっ放しになっていて、通行人の自分がのぞきこむと、玄関から薄暗い廊下の突当たりまで見通せてしまう。不用心というよりも、昭和の暮らしという感じがした。網戸越しに、誰もいない畳敷きの和室が見えて、奥の低いテーブルに、妙に大きな黒縁額の遺影が立てかけられているのが見えた。写真の主から見返されたように思って、あ、こわ。と思った。