淹れ方

あの曲なんだっけ。ウォン・カーウァイの映画の最後にかかってたやつ…と思って、ああ「ハッピー・トゥゲザー」だと自己解決した。この曲は何度聴いてもすぐ忘れて、それでしばらくして思い出して自己解決する、それを何度も何度も飽くことなく繰り返すためにあるような曲だ。

たまに行く喫茶店では「本日のサービスコーヒー」ばかり注文する。メニューにあるストレートコーヒーのどれか一種類が、その日によって少し割安価格になっている。とはいえそれぞれの銘柄がふだん幾らで、ブレンドコーヒーをはじめとするその他の種類が幾らなのかは、メニューを見ないのでいまだによくわかってない。席に着くと「本日のサービスコーヒー」と立札があるので、いつもそれを指して注文してるだけなのだ。

ところで、たしか去年あたりか今年のはじめ頃だったか、家で飲むためのコーヒー豆を、その店から何度か買ったことがあった。買ったのは「ハウスブレンド」で、家で飲んでみると、苦みとロースト感強めなしっかりしたタイプで、朝のぼんやりした気分を覚醒させるにはとてもいいのだが、なにしろ味わい深すぎで重すぎる感なきにしもあらずで、毎回そればかり飲んでいるうちにやや飽きてきて、そのうち、その店とはまた別の豆を試したりもしたのだが、先日久々にその喫茶店をおとずれた際に、ふと思い立って、店内ではいただいたことのない「ハウスブレンド」を注文してみた。家ではずいぶんたくさん飲んだあの感じを、店で味わったらどう感じるか知りたかったのだ。

卓上に置かれたコーヒーを口にしてみて、ああこれは…と思った。つまり、自分の「淹れ方」の問題なのだ。たぶん、自分がまるで、このコーヒーのことを全然わかってない、この豆の持ち味をまったく引き出さないで使ってただけなのだとわかった。何のことはない、ぜんぜん難しい話じゃない、一応きちんと「分量」を意識しましょうよ、みたいなレベルの話だった。