匂い

川沿いの道を歩いていると、一帯を草刈りされた直後の、濃厚な匂いがあたりにたちこめている。ムッとした感じの、押しつけがましいような、まるで動物や人間の体臭を思わせるような匂い、現在進行形で成長していたものが、いきなり断ち切られて、はからずも内部から湧き出て止められないような匂い。

それでも植物は、暑いときにことさら暑がったりしないだけ、まだわきまえがあるというか、暑い季節でもきちんと寒い季節のことをおぼえているようなところがある。おぼえているというよりも、はじめから、暑さにも寒さにも身を晒していないようなところがある。

動物が季節の変化に右往左往せざるを得ないのは、そのスペック上しかたのないことで、それにしても植物は、季節に対して弱音をはくような態度はけっして見せない。花が咲いたり葉が散ったりするのを、我々は木の意志のように見るが、おそらく植物は季節ごとの自らの変化を、季節という時間単位に対応したものだとは考えてなくて、四季というものを我々とまったく共有してない。はじめからそれとは別の時間に生きているのが植物だし、我々がそれを待っているといった意味での死も、植物はそれをそうとは思ってないので、だから草刈りされた彼らは、土とまじりあい化合して濃密な匂いを放ちながらも、その匂いを自らで嗅いだとしても、それが自身の肉体の発してる匂いであるという自覚はない。