理容

久々に、理容店に行きたいと思った。髪を短くしたいのはもとより、なによりも理容師の剃刀による顔剃を、久々に体験したかった。午前中から真夏の太陽が照り付けるなか、徒歩で駅前の店に向かった。

人気のある店だということはわかっていた。だからあらかじめ電話予約をしたのだった。にもかかわらず、けっこう待たされた。理容師は男性ばかりで、客も男性ばかり、お父さんの息子で来客してるペアが、なぜか異様にたくさんいる。美容院みたいに、たらーっとしたサロン的雰囲気はなくて、男が黙ってひたすら仕事してるだけみたいな、すごくテキパキした空気が流れている。十分くらい待って、ようやく席に通されて、簡単なやり取りのあと、ほぼ雑談もなく、ばーっとカットがはじまる。愛想笑いも無駄口もなく、ひたすら目的に向かって進む、こんなに合理的でいいのかとやや戸惑うほどだ。

美容院と理容室の違いは、カフェだのパティスリーだのと居酒屋とか食堂の違いに似てるな…と思った。そして我ながら意外なことに、もしかしたら自分は、カフェとかパティスリー要素が少しはないと、何となくつまらないと思ってるのかも…などと思った、はじめのうちだけは。

そもそも男性に髪を切ってもらうのが、ものすごく久しぶりだったのだが、髪をつまむときの力や、シャワーのお湯をかけて頭をぐしゃぐしゃっと洗ってくれるときの力など、いちいちすごく気持ちいい。こればかりは、やはり男の力の気持ちよさだなあ…と感じ入った。ざっくりしているが、シンプルに美味しい、これこそが、食堂の良さだなあ…と。これまでの女性の力が、物足りないなどと思ったことは一度もないのだが、しかしこうして男性の手を経験すると、妙なたとえだが、感じ取れるものの音質がいきなりぐっと上がったみたいな、そのくらいの違いを感じてしまう。

そして期待の顔剃だが…なんとコロナ対策のため、今の時期は顔の上半分しか施術してないとのこと。何たることだ。かくして目の周りやうなじの辺にだけ、久しぶりの剃刀の刃を感じることができただけで今日は終わった。この自粛は、たぶんまだしばらく続くのだろうから、そうなるとこの店に次回も来る理由はさしあたり無くなってしまう。せっかくなので、理容室、美容院を問わずに、別の店も試してみようか。