無制限

妻が用事で出掛けて、朝から自分一人だけの休日の朝に、これから何をしようかと思って、何も思い浮かばない。本の続きを読む気にならず、外に出掛ける気にもならない、何もすることがなかった。それで、けっこう焦った。これからどうすれば良いのか、そのことが、取り組みべき課題みたいに迫ってきた。

こういうことで途方に暮れるようになるとは…と思った。時間がありあまっていて、まるで砂漠の真ん中の小さな小屋で、日がな一日中ぼんやりと地平線の向こうを眺めているうちに、一日が暮れていくような、そんな毎日をくりかえすような、そういうのにあこがれていたというか、そういう無目的性、自己完結性みたいなものこそ、自分の中に根付いている嗜好のひとつと信じていたのに、じつはそうでもなかったというか、そういう要素をいつの間にかすっかり失ってしまったというのか。何もすることがない一人の休日の一日なんて、もうそれだけで、それ以上つけ加えるべきことなど何もない、ただひたすらその場にとどまっていれば良いだけのことじゃなかったのかと、そのはずだったのに、おそらく今の僕は、そうやってぼんやりと、時間のけじめなく自分を投げ出して過ごすことが、もはや出来なくなってしまったのかもしれないと思う。

時間本来の無尽蔵さを、今いきなり与えられたら、きっとその膨大さそのものにやられてしまう。たった一日だけ、一人の朝をむかえただけで途方に暮れてしまうなら、なおさらのことだ。

ひとまず着替えて外出することにした。駅前をぐるっと一回りして、それで夕食の食材などを買って、そのまま帰ってきた。ひどい汗をかいたが、わざわざそうなるために出掛けたようなものだ。買ったものを冷蔵庫に入れて、一部は下ごしらえして、早めに夕食の準備をはじめた。やることがあるのは助かる。やることさえあれば、たとえそれがどんなにつまらない些細なことだろうが、気持ちにかすかな張り合いが出て、小さな成果を確認することができるし、その日に対する奉仕を終えた気になれて、やっと酒を飲む資格も得られた気がするのだ。その手続き無しで酒を飲んでしまうならば、その味わいは極端に低下し、身体が悪い効能にたちまちむしばまれてしまう気がするのだ。