早起き町

三好銀「いるのにいない日曜日」の収録の「早起き町」がすばらしくて感激した。

午前三時に、アパートの隣の部屋の目覚まし時計が鳴って止まらない。壁の薄いアパートなので眠っていた二人は音で起きてしまう。仕方ないので、朝六時半の散歩に出掛ける。バスを降りた停留所前で、いきなり普段着の大男たちが急いで帰宅しようと焦ってダッシュしているところに出くわす。ふわっと甘い香りが漂って、彼らが朝帰りの相撲取りであることがわかる。こんなに朝早くから開いている本屋があるのを見つける。棚を見て、発売されたばかりの本を買うと店主が、おそらくあなたが日本で一番早くこの本を手に入れた人かもしれないと言う。公園のベンチには誰もいなくて、読み捨てられた新聞が置いてある。今日の朝刊だ。おかげで最新の新聞も読めた。世の中には早起きの人がいるんだなあと思う。

ベンチに座ってると、上空から子供の騒がしい声がきこえる。高架が頭上にあり、そこを電車が通り過ぎるのだが、子供が電車の窓から顔を出しているのが見えた。彼らのはしゃいだ声が、高架下のここまで聴こえたのだ。そのとき何かが降ってきて…二人の目の前にどさっと落下する。それは二つのランドセルだ。電車の窓から放り投げられたのだ。「そうか、子供は今日学校か。」蓋が開いて中が散乱したそれを見ながら二人は呆然とする。「かけ落ちだったりして…」と呟く。

二人で帰宅して、結局午後には眠ってしまう。でも明日は日曜日だから、かまわない。

これはもう「本当のこと」に違いない。創作とか実話とかの違いとは無関係にある「本当のこと」。