備品

三月の請求書に乗せるため会社の備品を買おうとなり、ペン類だのハサミだの細かいものから多少大きなものまで、必要なものをリストアップして、そのリストを持って買い物に出掛けた人が、ほどなくして青ざめた顔をして帰ってきた。

何があったのか聞くと、ダメだ自分にはとても選べないと言う。どういうことか?と聞くと、ハサミは、ハサミだけはかろうじて選ぶことができた、でもそれ以外はとても厳しい、できれば一緒についてきてくれないかと言う。

何を言ってるのかわからないので問いただすと、お前はホッチキスだけでどのくらい種類があるか考えたことがあるのか。ふつうのホッチキスの他に、少し大き目のものや、台紙を抑える機能の付いたものなど、用途に応じて無数にある。そのどれが良いか瞬時に選べるか?ホッチキスだけじゃないぞ、カッターについてはどう思ってるのか?カッターの種類なんて地球上の人の数よりも多いんだぞ。そのどれか一つ、そのどれがわが社にマッチしたカッターなのかお前にはわかっているのか?と言う。

だったらすべてにおいてもっともスタンダードで普通で凡庸で中庸なやつを選べば良いのではないか、それを元に、我々の本来求めていた用途や目的を追々知っていけば良いではないかと説得を試みたのだが相手は納得しない。そんな上っ面のいいかげんな言い方はやめてくれ、お前はこれまで一度でも、コート掛けの引っ掛ける部分の飛び出す形状の、どれがもっともスタンダードで普通で凡庸で中庸なやつかを考えたことがあるのか?気が狂うくらいものすごく色々な種類があるんだぞ?交差の具合、上下の間隔、全長、重量耐性、それらすべてにおいて普通とはいったい何かを、お前に出来るなら今すぐ示してみろ!と、もはや激昂気味である。

仕方なく僕も買い物に付き合うことにした。二人で買い出し先のエスカレーターに乗ってフロアに降り立つ。相手は僕に言った。よし、それじゃあ、まずはシュレッダーを見てもらうぞ。いいか、ついてきてくれ、こっちだ。僕は相手についていった。そしてそのあと、おそろしい光景が我々を待っていた。たちまちのうちにシュレッダー地獄に落ちた僕と彼は、まるで泥沼をもがくかのようにシュレッダー機器をかきわけながら必死になって手探りで掴まるものを探した。