仕事

感謝の言葉を先方からいただくことは稀にある。

「助かりました。かなり無理を言ってしまったのにご対応いただけて、どの要求事項もこちらの要望通りであることを確認できました。こちらとしては申し分ない結果を受け取ることができました、ほんとうにありがとうございました、今後とも、どうか引き続きよろしくお願いしますね。」

そんな言葉をいただいたなら、こちらも笑顔で

「いえいえ、とんでもございません、過分なお言葉恐縮の至りでございます。ヒアリングや質問など度々お付き合いいただきまして、お忙しいなか大変なお手数お掛けしたのではないかといたみいります。どうにか無事ここまで来れましたのは、お客様のご協力あっての賜物です。こちらこそ感謝申し上げます、本当にありがとうございます。」

感嘆の言葉を並べつつ、互いに何度もお辞儀を重ね合う。僕はちらっとふりかえって、後ろに控えているチームメンバーを一瞥する。彼らは身じろぎもせず微笑を浮かべてこちらを見ている。先方が続けて言う。

「それにしても見事なチームプレイですよね、進行管理がとてもしっかりしてらっしゃるんだろうなと感じました。テスト報告書の内容も文句の付け所がなくて、大したものだなあなんて、社内でも噂してたんですよ。」

なおもお褒めの言葉が続く。僕は照れたような笑顔のままかぶりを振って、

「いえいえ、まったく大した仕事じゃないです、ガキの使いみたいなものです。」

そう言い捨てて、相手のこめかみに拳銃の銃口をあて引き金を引く。銃撃音が室内に響き、火薬の匂いがたちこめ、割れたスイカみたいになった頭をのけぞらせながら相手はその場に崩れ落ちる。

褒められると、その相手を射殺するイメージをつい想像してしまうのは、僕の悪い癖だ。大昔に観たギャング映画の、銀行強盗に成功した主人公らが、その労をねぎらってくれる依頼人をもだまし討ちのように始末して、盗品も報酬も全て手にする場面がいまだに頭の中にこびりついてるせいで、似たシチュエーションになるとその想像が頭のどこかに沸き起こってしまう。