カラス

さっき妻から聞いた話。お昼休みに外でお弁当を食べていたら、近くのベンチにいた女性二人が突然悲鳴を上げた。驚いて声の方を見ると、二人の逃げ去ったベンチに、巨大なカラスが大胆不敵な態度で近づいてきて、残された二人のお弁当の前まで来ると、ラップの掛かったおにぎり一個を悠然と咥えて、そのまま羽根を広げて飛び去ったのだという。二人はなすすべなく、えー?盗られたー!!と大騒ぎで、それを見ていた妻も周囲の人々も、目のまえで起こったことのあまりの展開に、なかば腰を抜かしたようになっていたとのこと。それにしてもおにぎり一個を咥えたまま飛ぶのだから、ほとんど小型のイヌやネコと同等の筋力を持つ、たしかな力をもつ鳥なのだとあらためて思う。そういえばしばらく前に、たしか丸の内あたりを歩いていたら、低空飛行のカラスが、妻の足元をかすめるようにして飛び去っていったこともあって、ほとんど足に羽根の感触が残るんじゃないかと思われるような至近距離を、まるで危険運転の不良少年みたいな、おい邪魔だよどけどけと言わんばかりの態度で飛び去っていくのを見送りながら驚くやら呆れるやらだったけど、もしちょっと見当が外れて直撃でもされたら、あの重量感であのスピードだと、場合によっては人間もカラスもかなりの大怪我かもしれない。さらに思い起こすと、たぶん以前ここに同じことを書いたのだけど、生きた雀を咥えたまま木の枝に止まってるカラスを見かけたこともあった。鋼のようなクチバシに挟み込まれて絶望的な状況の雀が、小さく嗚咽を漏らしながら身悶えしていて、あれにはさすがに震撼させられた。