青梅沿線

連休中、青梅線に乗ったとき、沿線の羽村駅とか河辺駅とか、もう十五年以上前によく仕事で言ったなあ…と思い出した。わりと製造業系企業の工場が多い土地柄で、担当営業と一緒に何社かの顧客先へ訪問する機会がたまにあった。

あの頃は実にのんびりしたもので、いや、あの頃の世間とか会社がのんびりしていたわけではなくて、単にその担当営業と自分の二人が、勝手にのんびりしてただけだが、とにかくそんな気分で、仕事はそこそこで終わらせて、さっさと居酒屋へ行って呑む。そのまま終電もなくなってビジネスホテルに泊まって部屋でも呑む。あるいはわざわざ前泊してその夜から呑んで、翌日仕事が終わったらまた呑むとか、仕事であのへんの沿線に外出するのは、ほとんど呑むための小旅行みたいな感じだった。

ただそうやって酒を飲んでいた時間のことはほとんど記憶になくて、たとえば駅の改札を出て階段から見下ろした、ほとんど人影もない駅前ロータリーの様子とか、駅周辺から程なくしてあらわれるまっすぐな道とまばらな住宅と空の広がりとか、入場ゲートを通って社屋に向かうまでの芝生の色とか、バス停に佇む人とか、そういう実に些細な、どうでもいい瞬間のスナップショット的なイメージばかりが今でも思い出される。

仕事での出張とか外出はわりと好きだった。とくに仕事が終わって会社に戻るときの、ある程度余裕見ながらゆっくり帰るときの感じが好きだった。(ほんとうは用件が片付いたらすみやかに帰社すべき)

そういうときはなぜか、じっさいの旅行よりもよほど旅行者的な、たぶんそういう視点で景色を見ていたのだと思う。仕事というシチュエーションによって、なぜか自動的にそのような視点に定まった。何の特長もない、まったく取るに足りないはずの、どうでもいい景色や出来事が、それで眼に映り込んでくる。半分矯正され半分自由な、程よく受動に動かされている心身の感触が心地よく、その状態での眼が映し込むものを見るのが好きだった。