アトレ上野

ふと気になって調べたら、上野駅構内に「アトレ」ができたのは2002年らしい。そんなに昔のことだとは思わなかった。「アトレ」ができてからは駅内に色々と商業施設が店舗を連ねているのだが、すでに三十年近く上野駅利用者である自分が、では「アトレ」が出来る前の上野駅がどんなだったか?を思い出そうとしても、まったく思い出すことができない。JRのホームから中央改札へ出るまでは経路も景色もたぶんほとんど変わってないはずで、あの頭を打ちそうなほど低く掛かっている鉄の梁が、如何にも古い駅という感じがするのだが、しかし改札を出てからは、おそらく昔と今とでは印象がかなり違うはずだ。改札を出て、猪熊源一郎の壁画を背にして前方に目を向けたとき広がる景色には、今も昔もさほどの変化はないのかもしれないけど、そこから広小路口や不忍口へ向かって歩くときに、構内の様子がどんな感じだったのか、そこはまるで思い出すことができない。

そもそも若い頃であれば、上野に行く目的のほとんどは上野公園方面にあるので公園口に降りることがほとんどだったわけだから、中央改札口なんて記憶になくて当然のことかもしれない。よく考えたら学生の頃に上野の繁華街に行ったことなんて数えるほどしかないし、会社員になってからも十年間は上野に通っていたけど最寄り駅は御徒町だったので、目的もなくわざわざ上野方面に行くことは稀だったし、いつしかおっさん化して酒をのみ始めた頃には、上野駅もすでにとっくに「アトレ」だったわけだ。

昔は上野界隈にもCDショップや本屋はたくさんあったので、かつてはそういう場所にはほぼ毎日通っていたけど、現在その手の店はほぼ絶滅してしまったし、そう考えると「アトレ」以前の上野駅について記憶がないのも、その当時は駅構内だの周辺の様子だの、そんなことにまるで興味がなくて、本やCDの棚の様子を確かめるために上野駅やその周囲をうろうろしていただけだからだろう。

上野駅にかぎらず、おそらく駅というのは頻繁に作り変えられなければならない施設であるから、最初から可変性を盛り込まれて設計されているのだろう。要するにシンプルな柱と屋根だけの大枠内を、必要に応じて区分けを変えたり導線を変えたりしてるので、変化して当たり前だし、べつに昔をなつかしんだりありがたがるようなものでもないと言えばない、とも言える。もちろん上野の風格ある駅舎は今後もあってしかるべきだが。ただしそのときはよく見てなかったけど、気付いたら消えてなくなっていたものに気付いたときこそ、やけに心残りな思いが掻き立てられがちになる。今の興味で昔を見たいとは、誰もが考えるありふれた思いであるところだろう。ちなみに当時の本や音楽をなつかしいとはさほど思わない。今も聴けば聴けてしまうし、読めば読めてしまうし、内容が風化したとも思わない。そんなに昔のことだとは思わなかった、とおどろくことはある。