ビルが解体されて丸ごと無くなると、周囲にあるビルのこれまで見えなかった壁が露出する。

まるで日焼けしてない素肌のような、掃除も整理もまるでやったことない部屋みたいな、そんな「内側」が、いきなり衆目の元へ晒されてしまっている。

元々のビルが無くなって、むなしいほど広い壁があらわになっているので、屋上の狭い一画に看板がひしめき合ってるのが妙に滑稽な感じがする。

隣のビルの、きっと夜にはネオンの光るお店が、フロアごとにぎっしりと詰まっているはずで、あの渇いた灰色の壁一枚でさえぎられた向こう側の、張り巡らされたアリの巣の断面みたいなのを想像してしまう。

ビル一枚が無くなって、壁三枚があらわれた。その三枚が、それぞれ個性をもっている。それは見慣れた風景にはじめてあらわれた新鮮な三枚でもあるけど、できれば見るべきでない、そっとしておくべきだった、そのかすかな羞恥心が、薄くただよっているかのようでもある。