帰りの電車のなかで、前にいた人のTシャツのプリントが蛙だった。蛙が壁をよじ登ろうとして、身体をねじり両手両足を交互に伸ばす姿だ。
子どもの頃、蛙の肢体には惹かれるものがあった、それをたくさん絵に描いたりしたのを思い出した。毛や触覚のない艶のある滑らかな身体、筋肉の形状がくっきりと浮かび上がっていて、登ったり降りたりするときの手足の動きはとても明確で動作の肌理が細かくて、ぐっと縮めた状態からほぼ直線に近いほど伸ばした状態までの、四肢の可変域の幅がダイナミックで、与えられた複雑な空間を移動するためにもっとも適した仕組みを有しているような感じが、そのフォルム全体から伝わってくるようだった。実際、水中から陸上までありとあらゆるところに彼らは出没するだけの機動力を具えていたし、時折手の中におさめることのできたときの確かな重量感は、昆虫などとは異質な生物としての存在感のたしかさを強く感じさせてくれた。
蛙なんて、今ではもう触る気にならないが…。ちなみに妻は、蛙を蛇蝎のごとく嫌っている。というかたぶん蛇より嫌ってる。