Ned Doheny「Hard Candy」(1976)、あるいはSteely Dan「Gaucho」(1980)、あるいはDonald Fagen「The Nightfly」(1982)など、超定番ながら秋という季節に安定して響く音楽を選ぶとすればこれらか。

いや、こちらが選ぶのではなくて、ある時期ふいにそれらの楽曲が、秋の訪れを告げてくれるといった感じなのだ。少し大きめのボリュームで再生すると、クリアだけど最近とは明らかに質感の違うサウンドが部屋いっぱいに広がって、音のある部分と無い部分の隙間に、季節感がただようようなのだ。音楽というか、これが振動する秋の空気、ということか。

なおこれらの音源のうち、Donald Fagen関連なら現在ハイレゾ音質で提供されているのだが、しかし当時のステレオ装置で聴くより今の方が音質として優れているとは、必ずしも言えないのだろうと思う。と言うよりも、何をもってその音の良さを評価するか、音の良さとはそもそも、本来あるべき何かをかぎりなく損なわない、かぎりなく再現性100%に近づける営為であるならば、これはそこに80年代初頭という条件をいかに加えて吟味できるのかの問題でもあるだろう。あのときの再生装置でなければ、あの時代でなければ、あの季節でなければ…と、ないものねだりが、ひたすら続くことにはなるだろう。でもきっとそれはそれで良いし、それ以上はどうしようもない。