設置音楽2 IS YOUR TIME


初台のICCで「坂本龍一 with 高谷史郎|設置音楽2 IS YOUR TIME」を観る。会場の真っ暗闇、進む数歩先がまるで見えず、足を進めるのも躊躇されるほどの暗黒空間に、おそるおそる入っていく。やがてぼやっとした光が見えてくる。ある程度広い空間だということがわかる。支柱に支えられた頭上数メートルほどの高さに、左右五枚ずつ合計十枚の正方形の液晶モニタが向かい合わせで並んでいる。一枚一枚が思い思いに光の強さをゆっくりと変化させながら、空間全体を薄っすらと照らし出している。すべてのモニタがほぼ消灯されて周囲がほぼ暗闇になる時間も少なくない。観客は頭上を光るモニタに取り囲まれるようにして、突っ立っていたりその場に座っていたりと勝手な状態でいるので、油断して動くと座ってる人を蹴飛ばしてしまうかもしれないので気をつけないといけない。空間の突き当りには、一台のかなり老朽化した風合のピアノが、弱いスポットライトの光に浮かび上がっている。鍵盤部には自動打鍵装置が取り付けられていて、その仕組みによって時折、断片的な音を虚空に空しく発散している。会場に着いたばかりのときはサイン派状の音が四方から重ねられていて、それに伴ってモニタが明るさの強弱をゆっくりと変え続けている状態だった。


結局、一時間半くらいその会場にいたのだが、途中でライブパフォーマンス ---アコーディオンやフルートやヴァイオリンなどの演者が、特定の音で呼応しあうかのような感じで、ゆっくりと会場内を歩き回りながら、無音間隔の多い合奏というかいくつかの単音だけでお互い呼応し合うような演奏が行われ、その後楽器を置いた演者たちの声で紙に書かれた数字の羅列を、さっきと同じ要領でお互いに読み上げながら、ふたたびゆっくりと会場内を練り歩くようなパフォーマンス(というかこれも演奏か)---が行われたりもしたが、ほぼアルバム「ASYNC」からの楽曲に沿ったサウンドインスタレーションで、あらためてアルバム「ASYNC」をじっくりと聴くことのできる時間となり、堪能した。


インスタレーション、つまり高谷史郎の作品としてとくに大きな特徴を感じるわけではなく、視覚的な表現として自律的に強いわけでもなく、坂本龍一の音楽にかなり寄り添った、音楽に付与され、音楽と共に稼動するためだけの装置、という感じだったのだが、むしろそれが良かった。聴覚体験として果てしなくつづく愉悦という感じだった。


アルバム「ASYNC」は、発売されて全編通して聴いたときは、思いのほか叙情的な部分も少なくない内容の印象を当初受けたものだが、今回会場で再生された楽曲はかなりハード目な、如何にもホワイトノイズ・サイン波的な、言葉そのものの意味におけるヘヴィメタル的な楽曲ばかりが選ばれていて、たぶん今回用に少しリミックスされていたかもしれないが、それでしかも、4月にワタリウムで見た設置音楽1のときもそうだったが、今回も会場内再生装置が素晴らしくて、たぶんスピーカーの数は数えた限りでは前面に二つ、後方に二つ、そして左右に計五つずつ、さらに古くてでかいラジオみたいなのが床に一個置かれていて、ピアノの下にも一個か二個あった。まあスピーカーが並んでるというのは、基本的にはその「見た目」だけで嬉しいわけだが、これだけの物量でサラウンド化されたノイズを聴けるなんて、それだけでありがたいというものであろう。ことに「zure」とか「disintegration」あたりの曲をモチーフに展開された時間は実にすばらしかった。


帰宅して、坂本龍一「ASYNC」を再度聴く。それでリミックスのコンピレーション「ASYNC - REMODELS」も聴いたが、これは原曲から別のよさを引き出すのにかなり苦戦している楽曲たちのラインナップという感じだった。何曲かは良いと思ったのもあったが。