レッチェン・パーラト 1st show を予約したブルーノート東京へ。グレッツェン・パーラト(Vo)、デビッド・クック(P)、アラン・ハンプトン(G、B) & マーク・ジュリアナ(Ds)の編成。ピアノとベースとドラムの構成で、決して派手ではなく、どこまでもしっとりと、深く、繊細で、凝縮された、すばらしい演奏。前回(2017年)よりもバンドとしてのまとまりや一体感において、今回の方が全然良かったように思う。最新作や前々作より一昔前からの曲チョイスが多かったけれども、だからこそ演奏自体の熟成感、こなれた感がすばらしい。

デビッド・クックのピアノは実直でやるべきことをしっかりやる感じで全体に貢献し、ベースとドラムはもはや盤石。どの曲においても中心になってしっかりと支えてくれているのがアラン・ハンプトンのベースか。マーク・ジュリアナのドラムは今更ながらきわめて個性的で、だからこそその時期の曲がセットリストの中心になったのだろうが、本来あるべきリズムや流れを頭に思い浮かべながら、それとはまったく無縁のところに、ぶっきらぼうに別の音を置いていくかのような、じつに非人間的な感じのするスタイルに思う。たとえば曲の最初にモロにオモテ打ちでダダダダっとスネア叩くとか、台無しというか、ふつう考えられないようなことを平然とやる感じ。その違和感、その落差こそが、かえってノリというかグルーブを作り出す。

レッチェン・パーラトというボーカリストの個性にも、あらためて感じ入るものがあった。あのハンドクラップやジャラジャラした鳴りものを手に持って、単独スキャットでリズムを紡ぎ出すのを間近に見てると、底流にはボサノバ的なものを感じるとはいえ、こんな特異な非西欧的なすさまじいリズムセンスな人間って、他にいるだろうかと思う。歌手というよりはもう一つの楽器、という感じでもある。声や手の音も含めた、複数のアンサンブルがうねりながらどこまでも高まっていくという感じ。

個人的に白眉だったのは3曲目"E PRECISO PERDOAR"の深く濃いボサノバ~ラテン感溢れるゆったりした曲の深味が素晴らしすぎた。(が、セットリストが公開されてようやく曲名がわかった…。)そこから続けて"Holding Back the Years"の幸福感が広がって、さらにオルガンのイントロから霧のように妖しい、Live In NYC収録の同曲が至上のテイクだとは思ってるけど、それに拮抗すると言いたいほどの"Butterfly"、さらに深く沈降し水の底の薄暗闇にいたるかのような"JUJU"はウェイン・ショーター追悼の意も込められていただろうか。

ひとつひとつの音の粒までが、目に見えるかのようだった。終演し、ポーっと、ほとんどのぼせたような思いで店を後にする。