「ダゲール街の人々」に出てくる商店街の人々を見ていて思い出したのだけど、僕が子供の頃、つまり80年代の地元の埼玉郊外にも、まだ商店街はあった。もちろん駅前のスーパーとか駐車場完備のショッピングセンターもすでにあったし、普段の買い物はもっぱらそちらに行ってただろうし、商店街の時代はとっくに過ぎ去ってはいたけど、それでも思い浮かべることができるだけでも、通りの雰囲気から各店舗の並んでる様子、肉屋、魚屋、八百屋、時計屋、米屋、酒屋、豆腐屋、菓子屋、牛乳屋、床屋、本屋など、その店内や店主の人相まで、今でもぼんやりと記憶に残ってるほどだ。

お菓子屋のおばさんは、子供には優しいというか、いつも笑顔な印象だったけど、じつは万引きへの警戒心は常に意識にあって、だからいつも、店に来る子供を無条件に歓迎する気持ちなわけではないのだと、そういう話を聞いたことがある。もちろんお菓子屋のおばさん本人からではなくて、担任の先生から聞いたのだ。教室で一同を前に、その担任は言った。あのお菓子屋さんは内心そう思っているのですからね、と。なんか…ひどく荒んだ話ではあるけど、まあそんなものだろう。

どの店も個人経営の、自宅兼店舗であり、店先の棚から商品を選んで奥で会計してもらう。そうすると店主の背後に、家の奥が見える。ふつうの居間だったり、廊下の突き当りまで覗けたりもする。同じ小学校に通っている子供が、その店に帰宅してくることもあった。僕が知らないだけで、友達の友達だったりその弟妹であることも多かった。

唐突に思い出した。それから数年が経過しコンビニエンスストアが地元にもじょじょに台頭し始めた頃、テレビで山田太一のドラマ「深夜にようこそ」(1986年)がはじまったのだった。僕はこれは当時なぜか妙に期待をこめて初回から見た気がする。そしてあまり面白くなくて途中で見るのをやめたのではなかったか。それはドラマへの期待というより、コンビニというあらたな舞台設定への期待だったのだろう。