最期にみたもの


素晴らしい日差しが降り注いでいて、まさに春という感じの一日であったが、買い物に行くために妻とふたりで少し歩いてしばらくしたら、何となく胸の中が空っぽになってしまった感覚になって、それがしばらく続いた。おかしいなと思いながら普通に歩いていたのだが、その胸の感じは消えず、そのうち歩く両足や両手の感覚が、少しずつ遠くなり始めて、で、頭がポーっとしてきて、視界やその他の感覚が薄くなり始めた。


あ。これ貧血だなーと思いながら、少しスピードを緩めて歩き、妻とも普通に話しつつ、自分の体の様子を観察していて、ちょっとおかしいなと思い始める。感覚は戻らない。歩行運動だけで心臓とか全身とかが行う処理が、異様にいっぱいいっぱいになってる感じで、車の排気ガスや店先から漏れる食物なんかの匂いが不快で、でもそれ以上ヤバい感じにもならず、判断ができないまま、只、ふわーっとしている。


しばらくして、不安というか恐怖感が出てきて、妻にストップを言い、症状を話し、少し立ち止まる。…妻・不安がってやや狼狽する(これがイヤなんだ)。。近くのデパートのスタバに入って腰掛けて、この後どうするか話す。…まあ、大した事ないと思うのだけれど、とりあえず今、さっきみたいに歩き続けられるか?っつったら無理な感じ。。尚も変な感覚に包まれていて、胸の違和感と手足の感覚の衰退と頭のぼんやりに包まれつつ、しょうがねーなーと思って心に決めて、ちょっと病院行こうか。と言う。


妻が車の手配やらするため席を立つ。一人になったら、それと同時に貧血感が一挙にかなりの勢いで全身を襲う。ふわーっとフローティングしている感じ。うわーヤバイ死ぬかも。と思った。目の前を普通にたくさんの人が通り過ぎているのだけれど、今僕は、あんな風に普通に歩くのは無理。。っていうか普通に歩くってなかなかすごい事だなーと思う。っていうか、妻が戻ったら、夫は既に意識を失っていて…みたいな、そういう詰まらん展開になるのかと思って軽くイヤになる。あと仕事どうしようとか、昨日まで描いてた絵の事とかを思う。(おお一応、画家っぽい)…まあいつか死ぬんだから、死の訪れはいつも唐突なのかなー?とも思う。でもいざそうなると、色々思い出しても、残念とかそういう事は考えないものみたいだ。っていうか、自分というシステムがダウンしていく有様を、意識がずっと見つめてるだけで、ほんと単なるソフトウェア障害という感じだ。


…なんて事を考えながら、死ぬのかと思ったら、徐々にラクになり始めて、なんとかなり始めた。それで、そんな風にしてたら、妻とデパートの受付譲が来る。受付譲心配そうな表情。でも化粧が厚い。特に目周辺。救護室まで案内される。歩けますと言って、歩いたら確かに歩けた。でもゆっくりじゃないと不安。。妻も受付譲もやや慌て気味に、早足で歩くので、今の僕にはその速度についていけないんで、ゆっくりと後ろから歩いた。今、どかーんと苦しさがこみ上げて来たら…などと思うと、やはり結構不安。


救護室のベッドで横になって。ああイヤだなー皆騒いでる感じで、オオゴトっぽいなーと思う。デパートの人々皆さん手厚い感じで、素晴らしい顧客対応です。君たちは皆、すごい真っ当な社会人です!もっと杜撰な扱いでも良いくらい。どうせ大したことないですよ。。でも自力で歩いて帰るのは、今ちょっと無理っぽい。。んで、そのまま救急車を呼ぶ事と相成った。(生まれて初めての救急車!)


で…このまま長々といくらでも書けるが、まあいいや。やめた。結果的には異常なしでした。そして人生は続く。。