皇居


上村松園展を観るために大手町で降りてC13の出口を出て皇居の濠沿いを歩く。いつもながら大量の自転車と大量のジョギングする人々が、みな何かにとりつかれたかのように、無表情のまま、口を半開きにしたまま、集団の間隔を均一に保ったまま、ひたすら黙々と駆け足で走っており、ひたすらペダルを漕いで自転車を走らせている。まあそんな僕と妻もおそらく傍から見れば、同じように無表情で口を半開きにしたまま、ひたすらとぼとぼと歩いていたのだろうとは思う。国立近代美術館に着いてみるとチケット売り場にけっこうな行列が出来ていて、館内もそこそこ混雑してるっぽいので、うわぁさすが上村松園と思って、なんとなくもう観なくても良いかもねという事になって、そのまま本日は鑑賞をあきらめましょうという事になってそのまま踵を返し、また濠沿いを歩き平川門のところまで戻ってきてから、久々に門をくぐって皇居散策した。しかし歩いていると、これは要するに皇居というか、江戸城跡地をうろうろしてるのだなという当たり前の事にあらためて気づいた。木々や花を見て、二の丸と三の丸と本丸のそれぞれの散策路を適当に歩きながら、三十分か一時間くらい、うろうろしていたかもしれない。外国人観光客がとても多い。また写真を撮っている人がとても多い。僕も色々と撮った。門や石垣や番所の建物などが撮りどころで写真を撮る人にとって腕の見せ所である。そういうのを僕も撮った。途中で萩の花が咲いているので、妻があー萩だと言って、キレイだねえと言うが、でも近づいたらもう葉も花もしおれかかっていて元気がないようで、あれもう終わりだねと言って、そんな感じでああなんかつまんないねーと言いながら、ひきつづきぶらぶらと歩いてた。本丸のところに来たら、空を小さなセスナ機が飛んでいていつまでもいつまでもぐるぐると同じところを旋回していて、エンジン音がひたすらうるさい。しかし澄み切った青空を、白い機体が時折深く斜めに傾いで飛ぶ様は、まるで見たことの無い鳥類か巨大な羽虫を見ているかのような、なんとも不思議な感じで、つい上ばかりぼんやりと見上げてしまうのだった。そんな風にして歩きながら、妻がキョンについて色々と僕に説明するので、とりあえずいま、そのことについて覚えている限りメモしておく。でももうすでに先日の皇居で何をして何を見ていたかもほぼかなり忘れたし、そのときのキョンの話についても忘れてしまっていて、ところどころうろおぼえ。今、千葉県あたりにたくさんのキョンがいて、畑の作物などを食い荒らしたりしており、おおきな被害が出ている。キョンは、顔はけっこうかわいいのだが、そうやって畑などを食い荒らしたりして、人間に迷惑をかけている。キョンは顔はけっこうかわいいのだが、しかし泣き声がおおかみのような酷い声で鳴く。とにかく、あまりにもひどい声なのだそうだ。そんなキョンがいま、千葉県に増えていて、畑などを食い荒らしていて、千葉の人たちはとても困っている。実際、この話を妻がするのは今回がはじめてではなく、おそらく二度目か三度目のはずだが、しかしこの話で妻がいったいキョンのことをどう思っていてキョンがどうなってほしいと思っているのか、そこはあまりよくわかっていない。とりあえず話としてはそんな感じだった。その日はおそらく夕方の四時半くらいには帰宅していたはず。すっかり秋らしくなったとは確かに思う。日中は日差しが直接あたると相当暑く、まだまだ汗ばむような感じであるのだが、しかしなにしろ空に浮かぶ雲の感じが秋で、秋の空に雲は浮かんでいるという感じではなく、刷毛やへら状のもので空に対して薄くなでつけられているような感じといったほうが近いだろう。零下の澄み渡る青空。